臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
各機器と代表的な副作用・障害の対応関係を問う問題。輸液ポンプではセット不良などによりポンプ停止中でも重力で液が流出するフリーフローが起こり得る。電気メスは高周波電流を用いるため周辺機器や植込みデバイスへの電磁障害を惹起することがある。人工呼吸器は過大な気道内圧や過換気により肺の圧損傷(気胸等)を生じ得る。IABPは大動脈疾患や挿入操作を契機に大動脈解離のリスクがある。一方、超音波凝固切開装置は超音波振動による機械的エネルギーと摩擦熱で切開・凝固を行い、患者体内に高周波電流を流さず対極板を使用しないため、対極板装着部での熱傷という事象は成立しない。ゆえに5が誤った組合せである。
選択肢別解説
輸液ポンプ — フリーフローは妥当。輸液チューブの固定不良やアンチフリーフローデバイスの不作動などで、ポンプ停止時でもバッグと患者の落差により重力で液が流れる現象が起こり得る。重大な過量投与につながるため、セット手順の確認と装置側の防止機構が重要。
電気メス — 電磁障害は妥当。電気メスは高周波電流を使用し、リード線等を介して周辺機器に電磁ノイズが混入することで、モニタのアーチファクトやペースメーカ等の誤作動を生じ得る。適切なアース、配線取り回し、間欠使用などで低減を図る。
人工呼吸器 — 圧損傷は妥当。過大な気道内圧や過膨張により肺胞破裂、縦隔気腫、気胸などのバー外傷(圧損傷)が発生し得る。適切なPplatの管理、低一回換気量戦略、PEEP最適化などで予防する。
IABP — 大動脈解離は妥当。大動脈病変の存在や不適切な挿入・留置により内膜損傷を契機として解離を生じるリスクがある。適応選択、挿入前の画像評価、抵抗感がある場合の無理な進行回避が重要。
超音波凝固切開装置 — 対極板装着部の熱傷は誤り。超音波凝固切開装置は45–55 kHz程度の超音波振動による機械的エネルギーと摩擦熱で組織を切開・凝固し、高周波電流の回路を形成しないため対極板を使用しない。よって対極板装着部での熱傷という事象は起こり得ない(熱傷はあっても先端部の熱など局所に限られる)。
解説
誤りの組合せは「心臓ペースメーカ — 熱傷」。ペースメーカの出力はパルス電圧が数V、電流が数mA、パルス幅が数百µs〜1ms程度で、1拍あたりのエネルギーは極めて小さく、組織に臨床的な熱傷を生じさせる水準ではない。これに対し、超音波凝固切開装置では先端周囲でキャビテーションが生じ得る、電気メスは高周波電流による電磁障害を引き起こし得る、人工呼吸器は過大な圧や容量により圧損傷(気胸など)を来し得る、高気圧治療装置は減圧を急ぐと減圧症を誘発し得る、いずれも妥当なリスクである。
選択肢別解説
超音波凝固切開装置は数十kHzの機械振動で組織を凝固・切開する。高い音響エネルギーが液体中で作用すると先端周囲でキャビテーション(気泡の生成・崩壊)が生じ、組織損傷や微小出血の一因となり得るため、組合せは適切。
電気メスは数百kHz〜数MHzの高周波電流を用い、機器・配線・空間結合を通じて電磁ノイズを発生させる。心電図モニタの飽和やアラーム誤作動、植込み機器の誤作動など電磁障害の原因となるため、組合せは適切。
人工呼吸器で過大な一回換気量や高い気道内圧、低い呼気終末陽圧管理不良などは肺胞の過伸展を招き、気胸や縦隔気腫などの圧損傷(バロトラウマ)を起こし得る。したがって組合せは適切。
心臓ペースメーカの刺激出力はパルス電圧がおおむね1〜10V、電流が数mA、パルス幅が約0.2〜1ms程度で、1拍あたりのエネルギーはごく小さい。通常の作動で組織の熱傷を生じることは想定されないため、「熱傷」との組合せは不適切(本問の誤り)。なお電気メスやMRIなど外部エネルギー併用時にリード先端の加熱が問題となるのは別の事象である。
高気圧治療装置は加圧・減圧を管理するが、減圧を急ぐと体内で気泡が発生し減圧症を誘発し得る。適切なプロトコルでは緩徐な減圧を行う必要があり、減圧症は管理不良時の代表的リスクである。組合せは適切。
解説
人工呼吸器関連の装置異常が生じると、気道内圧・換気量・加湿・酸素濃度などの生理学的パラメータが大きく変動し、有害事象を引き起こす。呼気弁の開放不全は呼出障害から肺内圧の上昇(オートPEEP、肺過膨張)を介して圧損傷のリスクを高める。呼吸流路(一般に呼吸回路)の屈曲は流路抵抗や閉塞を増やし、換気量低下やピーク圧上昇などの換気異常を招く。加温加湿器の停止は乾燥ガス送気により気道粘膜障害・線毛運動低下を来し、喀痰硬化や閉塞を生じやすい。吸入気酸素濃度の異常上昇は長時間で肺の酸素中毒(吸収性無気肺、びまん性肺障害など)の危険を増す。一方、呼吸回路のリークは設定量が患者に届かず低換気となり、二酸化炭素排出が不十分となって高二酸化炭素血症を来しやすい。よって「低二酸化炭素血症」とする選択肢3の組合せが誤りである。
選択肢別解説
呼気弁の開放不全では呼気が十分に排出できず、気道内圧が上昇し、オートPEEPや肺過膨張を介して圧損傷(気腫性変化や気胸など)を来しうる。組合せは妥当である。
呼吸流路(呼吸回路)の屈曲や折れはガスの流れを物理的に阻害し、吸気流量・一回換気量の低下、ピーク気道内圧上昇、呼出遅延などの換気異常を引き起こす。したがって組合せは妥当である。
呼吸回路のリークがあると設定換気量が患者に届かず低換気となり、二酸化炭素の排出不足で高二酸化炭素血症になりやすい。低二酸化炭素血症とする本選択肢の組合せは誤りである。
加温加湿器の停止により乾燥・低温のガスが送気されると、気道粘膜乾燥と線毛機能低下を来し、喀痰が粘稠化・硬化して喀出困難や閉塞の原因となる。組合せは妥当である。
吸入気酸素濃度(FiO2)の異常上昇を長時間継続すると、活性酸素増加などにより肺酸素中毒(吸収性無気肺、びまん性肺障害など)を招くリスクが高まる。組合せは妥当である。
解説
体外循環中のトラブルでは、原因に対してリスクを速やかに除去できる対処が求められる。膜型肺の血栓形成はガス交換能低下や圧損上昇、塞栓リスクを伴うため、ACT低下があればヘパリン追加は行うが、基本は人工肺(必要に応じて回路)交換が第一選択であり「ヘパリン投与」を対応とするのは不適切。膜型肺ガス出口の血漿漏出は膜障害・プラズマリークで人工肺交換が適切。血液ポンプ停止時は手動ハンドルで循環を維持しつつ復旧・交換する。送血側への大量空気混入は直ちに送血停止し、除泡・回路再充填などを行う。熱交換器の温水側への血液混入は熱交換器破損(非滅菌水側への血液漏出・逆流汚染リスク)を示し、直ちに人工肺(熱交換器一体型)や熱交換器の交換・隔離が必要で温度調節では解決しない。従って誤っている組合せは1と5である。
選択肢別解説
誤りの組合せ。膜型肺で血栓形成が生じるとガス交換能低下、トランスメンブレン圧上昇、塞栓リスクが高まる。ACT低下が原因ならヘパリン追加は必要だが、既に血栓が形成された人工肺は速やかな人工肺交換が原則であり、「ヘパリン投与」を主たる対応とするのは不適切。
適切な組合せ。膜型肺ガス出口からの血漿漏出は膜障害(プラズマリーク)を示し、ガス交換不良やさらなる破綻につながるため、人工肺の交換が必要となる。
適切な組合せ。血液ポンプが停止した場合は直ちに手動式ハンドルで灌流を維持し、同時に電源復旧や代替ポンプへの切替を行う。循環維持の初期対応として妥当。
適切な組合せ。送血回路内に大量の空気が入った場合は即時に送血を停止し、回路除泡・再充填などで空気排除を行う。患者への空気塞栓回避が最優先で、送血停止は正しい初期対応。
誤りの組合せ。熱交換器の温水側への血液混入は熱交換器の破損・リークを示し、水側(非滅菌)からの汚染や逆流リスクがある。直ちに人工肺(熱交換器一体型)や熱交換器の交換・隔離が必要で、温水の温度調節では根本的対処にならない。
解説
事故原因の成立性で判断すると、単回使用(ディスポーザブル)製品の再使用は交差感染の典型的リスクであり正しい組合せ。高圧酸素ボンベのバルブを急に開くと断熱圧縮で局所が高温となり、酸素により可燃物(油脂や埃、樹脂)が容易に着火し発火につながるため、これも正しい。アルコール系消毒薬は引火性で、乾燥不十分のまま電気メスを用いると火炎・フラッシュ火災を生じ、熱傷の原因となるため正しい。一方、ヒューズの断線は過電流時に回路を遮断する保護動作であり、機器停止は招くが感電の直接原因にはならない。X線CT装置への電源供給停止時はX線が発生せず、新たな被曝は生じないため不適切な組合せである。
選択肢別解説
誤り。ヒューズの断線は過電流から機器や配線を保護するための遮断動作で、電源が遮断され感電リスクはむしろ低下する。機器の停止や診療中断は起こり得るが、感電の直接原因にはならない。
誤り。X線CTは電源供給がなければX線を発生できない。電源供給が停止すれば照射は止まり、新たな被曝は生じない(問題となるのは検査中断や画質不良など)。
正しい。ディスポーザブル(単回使用)製品の再使用は十分な洗浄・滅菌が担保できず、交差感染のリスクを高めるため禁止されている。従って「感染」の原因として妥当。
正しい。高圧酸素ボンベを急激に開放すると断熱圧縮で調整器やバルブ付近が高温となり、酸素により可燃物が着火しやすく発火の原因となる。バルブはゆっくり開け、油脂の付着を避けるなどの管理が必要。
正しい。アルコール系消毒薬は引火性が高く、乾燥不十分の皮膚・ドレープ上で電気メスの熱や火花により引火しフラッシュ火災・熱傷を生じ得る。十分な乾燥確認と液だまりの除去が必要。
解説
人工心肺(体外循環)中の代表的トラブルと初期対応の組合せを問う問題。脱血カニューレの脱落時は静脈リターンが急減しリザーバ血液量が低下、空気吸引による動脈側への空気誤送リスクが高い。直ちに送血ポンプを停止(または即時減速・停止)し、送血ライン遮断・心筋保護とともに原因除去を行うのが原則であり適切。膜型人工肺のwet lung(ガス側の結露・水侵入などによるガス交換低下)では、一時的にスイープガス流量増加や乾燥化で改善を試みるが、改善しなければ人工肺交換が適切。人工肺内の血栓形成に対しては、ヘパリン追加では既存血栓は溶解できず、圧較差増大やガス交換低下を伴えば酸素ator交換が原則であるため、提示の対応は不適切。熱交換器の水漏れは汚染・溶血や回路内への水混入の危険があり、原因部位である熱交換器(多くは人工肺一体型)自体の交換が必要で、冷温水槽の交換では解決しない。大動脈内への気泡誤送時は直ちにポンプ停止・動脈ライン遮断・Trendelenburg体位・大動脈基部ベント等での吸引などで対応し、必要に応じ回路再循環等を用いる。送血ポンプの逆回転は推奨されず不適切。したがって正しい組合せは1と2である。
選択肢別解説
正しい。脱血カニューレの脱落では静脈回路からの空気吸引によりリザーバが空になり、動脈側への空気誤送(空気塞栓)の危険が高い。直ちに送血ポンプを停止(または即時減速し停止)し、送血ラインの遮断・原因部位の確認と復旧を行うのが標準的対応である。
正しい。膜型人工肺のwet lung(ガス側結露・水侵入によるガス交換低下)は、一時的にスイープガス流量増加や乾燥化で改善を試みるが、改善しない場合は人工肺の交換が適切である。
誤り。人工肺内で形成済みの血栓はヘパリン追加投与では溶解できない。人工肺前後圧較差の上昇やガス交換能低下を伴う場合は回路停止手順を踏んだ上で人工肺の交換を検討するのが妥当である。
誤り。熱交換器の水漏れは血液汚染・溶血・回路内水混入の危険があるため、原因部位である熱交換器(多くは人工肺一体型)の交換が必要である。冷温水槽(ヒータークーラー)の交換では漏れ源を解決できない。
誤り。大動脈内への気泡誤送時は、即時の送血ポンプ停止・動脈ライン遮断・頭低位、可能なら大動脈基部ベント等での吸引、回路の再循環などで気泡除去を図る。送血ポンプの逆回転は推奨されず不適切である。
解説
問われているのは「医療機器と有害事象の組合せ」で不適切なもの。キャビテーションは超音波の負圧場で気泡が発生・崩壊する現象で、超音波診断装置や超音波治療装置で問題となる。一方、マイクロ波加温装置は2.45 GHz などの電磁波の熱作用で組織を加温するため、機序上キャビテーションとは結び付かない。マイクロ波加温装置の主な有害事象は過加温や熱傷であり、よって「マイクロ波加温装置—キャビテーション」は不適切(正答)。他の組合せは、いずれも実際に起こりうる有害事象で適切。熱希釈式心拍出量計は肺動脈カテーテル操作に伴う不整脈、経皮的酸素分圧モニタはセンサ加温による皮膚障害(紅斑・水疱・熱傷)、電気メスは高周波電流の熱作用に伴う熱傷、レーザメスは波長依存の眼傷害が代表的である。
選択肢別解説
不適切。キャビテーションは超音波の音響作用による気泡生成・崩壊現象で、マイクロ波加温装置(電磁波による熱作用)では生じない。マイクロ波加温装置の代表的な有害事象は過加温や熱傷、ホットスポット形成などである。
適切。熱希釈式心拍出量計では肺動脈カテーテル(Swan-Ganz カテーテル)を右心系へ進める際、心内膜刺激で期外収縮や房室ブロック、心室性不整脈が出現しうる。挿入時の心電図監視と適切な操作で予防する。
適切。経皮的酸素分圧モニタ(TcPO2)は測定部位の血流・拡散を高めるため約43~45℃に加温する。長時間装着や体温感受性の高い患者では紅斑、びらん、水疱、稀に熱傷などの皮膚障害が起こりうる。
適切。電気メスは高周波電流の熱作用で切開・凝固を行うため、対極板の接触不良、電流密度の集中、代替アースや容量結合などにより熱傷が発生しうる。対極板貼付と機器接続の適正化が予防に重要。
適切。レーザメスは波長特異的に角膜・網膜へエネルギーが集光し、保護不備で眼傷害(角膜障害や網膜損傷)を生じうる。波長に適合した遮光ゴーグルの着用とビーム管理が必須。
解説
調節換気では、機器や回路の異常は換気量・気道内圧・酸素化・加温加湿などに直結し、有害事象を招く。弁の開放不全は呼気が十分に逃げず内因性PEEPや肺過膨張を生み、圧損傷の原因となる。呼吸流路の屈曲はガス流の障害により送気・呼出が阻害され換気異常を来す。加温加湿器の停止は気道乾燥を招き喀痰が粘稠化・硬化する。吸入気酸素濃度の異常上昇は長時間で酸素中毒につながる。一方、呼吸回路のリークは実効一回換気量が低下し肺胞低換気となるため、二酸化炭素の排出が不十分となり高二酸化炭素血症を起こすのが典型である。したがって「呼吸回路内のリーク — 低二酸化炭素血症」は誤りである。
選択肢別解説
適切な組合せ。呼気弁などの開放不全があると呼出が不十分となり、肺過膨張・内因性PEEP増大から気道内圧が上昇し、圧損傷(バロトラウマ)を招く。量規定・圧規定いずれでも起こりうる。
適切な組合せ。回路や人工気道の屈曲は流路抵抗の増大や閉塞を招き、送気不足・呼出困難・ピーク圧上昇などの換気異常を生じる。アラーム作動や一回換気量低下がみられることが多い。
誤った組合せ。回路内リークがあると設定換気量が患者に十分到達せず肺胞低換気となるため、典型的には高二酸化炭素血症を来す。低二酸化炭素血症は過換気時にみられる所見で、リークの直接的帰結ではない。
適切な組合せ。加温加湿器の停止により吸入ガスが乾燥し、気道粘膜傷害と線毛機能低下、分泌物の粘稠化・痂皮化(喀痰の硬化)を来し、排痰困難や閉塞のリスクが高まる。
適切な組合せ。吸入気酸素濃度(FiO2)の異常上昇を長時間持続すると活性酸素による毒性で酸素中毒(肺障害、吸収性無気肺など)に至る。