臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
体外循環中の溶血は、赤血球膜が機械的・熱的ストレスを受けて破壊され、遊離ヘモグロビンが血漿中に漏出する現象である。直接的な誘因は、過度な陰圧・陽圧、強いずり応力(高流速・狭窄・乱流・ジェット流)、空気‐血液界面の多用(強い吸引)、キャビテーション、過度な加温などの「物理的・熱的ダメージ」である。選択肢1〜4はいずれもこれらの機械的・熱的要因に該当し、溶血の直接的原因となり得る。一方、ヘパリン投与不足(選択肢5)は抗凝固不十分により回路内凝血や圧損増大等を招くが、赤血球に直接機械・熱的損傷を与える事象ではないため、溶血の直接的原因とはいえない。
選択肢別解説
吸引ポンプ(カーディオトミー吸引・ベント)の回転数を過度に上げると、強い陰圧と空気混入に伴う空気‐血液界面、ならびに高いずり応力が生じ、赤血球損傷から溶血を直接惹起し得る。したがって直接的原因となる。
脱血不良のままポンプ回転を上げると静脈側に過度な陰圧がかかり、配管内でキャビテーションや高ずり応力が発生して赤血球膜が損傷する。よって溶血の直接的原因である。
熱交換器の過度な加温は血漿タンパク変性や赤血球膜の熱損傷を招き、溶血を直接引き起こす。一般に温水側は約42℃以下に管理し、血液温は安全域に保つ。従ってこれは直接的原因となる。
送血流量に対して小さすぎるカニューレは流速上昇とジェット流を生じ、出口部や対向壁で高いずり応力・乱流を作って赤血球を損傷する。場合によりキャビテーションも助長し、溶血の直接的原因となる。
ヘパリン投与不足は抗凝固不全による凝血・回路閉塞や酸素ator圧損増大の原因であり、赤血球に機械的・熱的ストレスを直接与えるものではない。二次的に回路条件悪化を通じて溶血を助長し得るが、直接的原因とはいえない。
解説
体外循環(特に低体温併用)では代謝が抑制され、全身酸素消費量が低下するため、至適灌流量は低く設定でき、末梢での酸素摂取が減ることで混合静脈血酸素飽和度(SvO2)は上昇しやすい。また、回路・人工肺など人工物との接触や希釈、せん断応力、補助循環操作(吸引など)により血小板は消費・破壊され、血小板数は減少する。pH管理では、アルファスタット法は体温補正を行わず低体温下で実際のPaCO2が低めとなり脳血管収縮を来すため脳血流は減少しやすい。一方、血糖については低体温・術侵襲・カテコラミンやコルチゾール上昇、インスリン分泌低下・感受性低下などにより高血糖になりやすく、「血糖値が低下する」は不適切で本問の誤りである。
選択肢別解説
誤り。体外循環(低体温・手術侵襲)ではストレスホルモン(カテコラミン、コルチゾール)上昇、膵β細胞からのインスリン分泌低下や末梢でのインスリン抵抗性により高血糖になりやすい。したがって「血糖値が低下する」は不正確。
正しい。希釈体外循環および人工物表面との接触活性化、せん断応力、サクション等により血小板の消費・破壊・機能障害が生じ、血小板数は一般に減少する。
$正しい。低体温では酸素消費量が温度低下に応じて減少するため、必要酸素供給量も低下し、至適灌流量は低めに設定できる(例:常温時の2.2–2.6 L/min/m^2から低体温でさらに低流量へ)。$
正しい。低体温による全身代謝・酸素消費の低下で末梢での酸素取り込みが減少し、同一灌流条件では混合静脈血酸素飽和度(SvO2)は上昇しやすい。
正しい。アルファスタット法は体温補正を行わず、低体温下で実際のPaCO2が低めとなるため脳血管が収縮し、脳血流は減少傾向となる(pHスタットに比べて低い)。