臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
単一故障状態(Single Fault Condition)は、医用機器の基本安全や本質性能を守るための保護手段が1つだけ失われた、または合理的に想定可能な単一の異常が生じた状態を仮定して安全性を評価する考え方である。JIS T 0601-1(IEC 60601-1)では、代表例として「電源導線の1本の断線」「F形装着部に外部電圧が現れる」「温度制御(または温度制限)機能の故障」「(フラマブル環境を想定する場合の)可燃性麻酔ガス等の漏れ」などが挙げられる。一方、「二重絶縁の双方が同時に短絡」といった二重の保護手段が同時に失われる事象は、単一故障ではなく二重故障に相当するため、単一故障状態には該当しない。したがって本問の正答は『二重絶縁の双方の短絡』である。
選択肢別解説
温度制御(あるいは温度制限)機能の故障は、加温・加熱回路の安全性評価で想定される典型的な単一故障状態である。温度上昇抑制の保護手段が1つ失われた状態として評価されるため、単一故障状態に該当する。従って本問(該当しないもの)の解としては不適。
可燃性麻酔混合ガスの漏れは、フラマブル環境で使用される機器を想定した安全性評価において、外装等からのガス漏えいを単一故障として仮定する例に該当する。よって単一故障状態に該当し、本問の解としては不適。
F形装着部(Type F applied part)に外部電圧が現れる事象は、装着部の絶縁・隔離機能の一部喪失を仮定する単一故障状態の典型例である。従って単一故障状態に該当し、本問の解としては不適。
二重絶縁の双方の短絡は、独立した2つの保護手段が同時に失われる状態であり、単一故障ではなく二重故障に相当する。よって単一故障状態には該当しないため、本問の正答に該当する。
機器の電源導線の1本の断線は、電源系の単一の断線を仮定する典型的な単一故障状態である。よって単一故障状態に該当し、本問の解としては不適。
解説
抜針事故(特に静脈針の抜去・離脱)は短時間で大量出血に至り得る重篤な透析関連事故である。発生時は直ちに回路を遮断・穿刺部を圧迫止血し、バイタルサインと推定出血量から循環動態を評価し、輸液・輸血の必要性を判断する。再発予防として、穿刺針・血液回路の十分な固定、回路接続部のルアーロック化、体動で引っ張りが生じないだけの回路長の確保が重要である。一方、身体拘束は倫理的・法的に必要最小限であり、切迫性・非代替性・一時性の三原則を満たす場合に限って慎重に実施すべきで、意識障害を理由に一律で行うのは不適切である。従って誤っているのは「意識障害のある患者は全員拘束する。」である。
選択肢別解説
正しい。抜針事故時は推定出血量、血圧・脈拍・意識などの循環動態、Hb値や基礎疾患を総合して輸血の要否を判断する。大量出血やショック兆候があれば迅速な輸液・輸血を検討する必要がある。
誤り。身体拘束は患者の権利・尊厳に配慮し、切迫性・非代替性・一時性の三原則を満たす場合に限り必要最小限で実施する。意識障害を有するという理由のみで一律に全員を拘束するのは倫理的にも不適切である。まず環境調整・見守り強化・機器配置の工夫等の代替策を講じるべきである。
正しい。回路接続部をねじ込みで固定するルアーロック接続は偶発的な離脱を起こしにくく、抜針事故・離断事故の予防に有効である。定期的な接続状態の確認と併用すると安全性が高まる。
正しい。患者の体動や体位変換時の引っ張り力を軽減するため、ベッド周囲で無理なテンションがかからないだけの十分な回路長を確保することは有用である。ただし不必要に長くして体外循環量が過大にならないよう適切な長さを選択する。
正しい。穿刺針や回路の固定不良は主要な原因の一つであり、動脈・静脈側ともに複数点での固定、皮膚への貼付状態や剥離の有無の定期確認、汗・皮脂・体毛への対策などで予防する。
解説
透析中の溶血は、主として透析液の化学的汚染(配管内消毒液残存、クロラミン、重金属[銅など]、硝酸塩など)、透析液温の上昇(おおむね42℃以上)、浸透圧異常(低張透析液)や回路不具合による機械的ストレスで生じる。選択肢1・3・4・5はいずれもこれらの典型的原因に該当する。一方、抗凝固薬の過量投与は出血傾向を増強するが、赤血球膜を直接障害して溶血を起こす機序は通常想定されないため、溶血原因としては誤りである。
選択肢別解説
配管内にホルムアルデヒドや次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒薬が残存すると、透析液が化学的に汚染され赤血球膜が障害されて溶血を起こす。正しい(溶血の原因となる)。
抗凝固薬(典型的にはヘパリン)の過量は出血傾向を助長するが、赤血球膜を直接破壊して溶血を生じさせる原因とはならない。したがって本設問(溶血の原因で誤っているもの)ではこの選択肢が該当する。
配管材の劣化や腐食により銅などの重金属が溶出すると、透析液が化学的に汚染され赤血球に酸化ストレスを与え溶血を引き起こす。正しい(溶血の原因となる)。
水処理装置の機能不全でクロラミン、重金属、硝酸塩などが除去不良となると、希釈水が汚染され透析液を介して赤血球膜障害を来し溶血の原因となる。正しい(溶血の原因となる)。
液温監視装置の故障で透析液温が上昇(おおむね42℃以上)すると、熱による赤血球膜障害により溶血が生じる。正しい(溶血の原因となる)。
解説
血液透析回路で空気が混入しやすいのは、血液ポンプより手前(脱血側/動脈側)の陰圧部で接続不良や穿刺ミス、開放経路がある場合である。陰圧により外気やライン内の空気が吸い込まれるためで、具体例として穿刺針接続部の緩み、脱血側サンプリングポートへの刺入不良、生理食塩液ラインのクランプ閉鎖忘れがあげられる。一方、血液ポンプより後(送血側/静脈側)は陽圧のため、接続不良があれば血液が外へ漏れる方向となり、空気が吸い込まれる原因にはならない。したがって本問では1・2・3が原因となる。
選択肢別解説
脱血側穿刺針と血液回路の接続不良は血液ポンプ上流の陰圧部に位置するため、隙間から外気が吸引され空気混入の原因となる。適切な締結とリーク確認が必要である。
脱血側サンプリングポートは陰圧領域にある。刺入角度や深さの不良でポートの弁が十分に閉鎖されないと外気が吸い込まれ、空気混入を起こしうる。刺入・抜針時の陰圧監視と確実な閉鎖が重要。
生理食塩液ラインの閉鎖忘れがあると、陰圧により生食バッグやドリップチャンバ内の空気が回路へ吸引されうる。プライミングや返血後はクランプ閉鎖・三方活栓の向き確認が必須である。
抗凝固薬注入ラインは通常、血液ポンプ下流(陽圧部)に配置されるため、シリンジ接続不良があれば血液が外へ漏出しやすく、外気が吸引される原因にはなりにくい。よって空気混入の原因とはいえない。
ダイアライザ入口部(血液側入口)は血液ポンプ下流の陽圧部であり、接続不良が生じると血液が回路外へ漏出する方向となる。外気が吸い込まれる機序ではないため、空気混入の原因とはならない。
解説
血液透析回路では、血液ポンプより上流(動脈[脱血]側)は陰圧、下流(静脈[返血]側)は陽圧となる。陰圧側で回路が開放・破損・接続不良・補助ライン開放などがあると外気を吸い込み空気誤入の原因となる。一方、陽圧側で回路が開放されると血液は体外へ漏出しやすく、空気が回路内へ吸い込まれる状況にはなりにくい。本問では静脈(返血)側留置針の抜針は出血の危険はあるが、回路内への空気誤入の原因としては考えにくいため「考えられない」に該当する。
選択肢別解説
動脈(脱血)側は血液ポンプ上流で陰圧域。留置針と回路の接続が離断すると、陰圧により外気を吸引し空気誤入が生じうるため、原因として考えられる。
補液ライン(生食など)は多くがポンプ上流(陰圧側)に接続される。閉鎖忘れやバッグ空などで大気に開放されると、陰圧により空気を吸い込み空気誤入の原因となる。
ポンプセグメント部(ローラポンプで圧迫されるチューブ)が破損すると、特に吸引側で外気が混入しうる。陰圧により微小な割れ目からでも空気が吸引されるため、原因として考えられる。
エア(ドリップ)チャンバの液面が低すぎる、あるいは圧条件の変動によりチャンバ内の空気が回路へ流入することがある。液面調整不良は空気誤入の代表的要因のひとつであり、原因として考えられる。
静脈(返血)側は血液ポンプ下流の陽圧域。留置針が抜去されると血液が体外へ漏出する危険が高いが、陽圧のため回路内へ外気が吸い込まれる状況にはなりにくい。したがって空気誤入の原因としては考えにくく、本設問の「考えられない」に該当する。
解説
各治療機器の主作用は次のとおり整理できる。電気メスは高周波電流を生体に流し、組織の電気抵抗で生じるジュール熱により切開・凝固を行う。マイクロ波手術装置は電磁波(2.45 GHz帯など)の電場で水分子の双極子回転やイオン運動を生じさせ、その誘電損失で発熱する誘電加熱が主作用である。CO2レーザメスは波長10.6 µmの光が水に強く吸収され光熱変換で蒸散・凝固(熱作用)を生じるため、電離を主作用とはしない。レーザ結石破砕はパルスレーザの吸収に伴う急激な加熱・キャビテーションから圧力波(衝撃波)が発生し結石を破砕する。超音波ネブライザは圧電素子で発生させた超音波で振動板を駆動し、液体を機械的振動により霧化する。したがって、誤った組合せは1(電気メス―誘電熱)、2(マイクロ波手術装置―ジュール熱)、3(CO2レーザメス―電離)で、4と5は妥当な組合せである。
選択肢別解説
誤り。電気メスは高周波電流(おおむね数百kHz〜数MHz)が組織を流れることで抵抗発熱(ジュール熱, $P=I^2R$)を生じ、切開・凝固を行う。誘電熱(誘電加熱)は主にマイクロ波やRFの電場による双極子回転・誘電損失で加熱する機序であり、電気メスの主作用ではない。
誤り。マイクロ波手術装置は水分子の双極子回転やイオン導電に伴う誘電損失で発熱する誘電加熱が主作用で、組織内を電流が直接流れて生じるジュール熱を主作用とするものではない。したがって「ジュール熱」との組合せは不適切。
誤り。CO2レーザメス(10.6 µm)は水への吸収が高く、光エネルギーが熱に変換されて蒸散・凝固(光熱作用)を生じる。電離(プラズマ化)は超高強度短パルス等で生じうるが、CO2レーザメスの主作用ではない。
正しい。レーザ結石破砕(例:Ho:YAGレーザ)はパルス照射により局所の急速加熱やキャビテーションから圧力波が発生し、これが衝撃波として結石に作用して破砕する。したがって主作用を「衝撃波」とするのは妥当。
正しい。超音波ネブライザは圧電素子で超音波を発生させ、振動板(ダイアフラム)の機械的振動で液体表面を微細化しエアロゾルを生成する。主作用は機械的「振動」である。
解説
体外循環中の空気塞栓は、陰圧がかかる部位(脱血側・ベント吸引部)や貯血槽液面の低下、ポンプ操作ミスなどにより回路内へ空気が混入し、それが送血側へ誤送されることで起こる。具体的には、左心ベント挿入部のシール不良や過度の吸引で心内へ空気が吸い込まれる、脱血回路の接続不良・陰圧過大で気泡が流入する、貯血槽の液面低下で送血ポンプが空気を吸い込み動脈側へ送ってしまう、ベントポンプの逆回転で大気側や回路内の空気を心腔内へ押し込む、などが代表例である。一方、膜型人工肺の血漿漏出(プラズマリーク)は、膜の疎水性低下により血漿成分がガス側へにじむ現象で、酸素化不良や圧損増大の原因にはなるが、血液側に空気を混入させて動脈側へ送る機序ではない。したがって、空気塞栓の原因でないのは「膜型人工肺(設問表記:膜壁肺)における血漿漏出」である。
選択肢別解説
左心ベント挿入部(左房や肺静脈への挿入部)のシール不良や過度の陰圧により、挿入部から空気が吸い込まれると心内に空気が流入し、体外循環回路や心腔内に気泡が混入する。除泡が不十分な場合、動脈側へ誤送され空気塞栓の原因となる。したがって原因となりうる。
脱血回路は陰圧となることが多く、接続部の緩みや陰圧過大で空気が吸い込まれる。貯血槽での除泡が追いつかず、液面低下などが重なると送血側へ気泡が移行し空気塞栓を起こしうる。したがって原因となりうる。
膜型人工肺の血漿漏出(プラズマリーク)は、膜の疎水性喪失で血漿がガス側へにじむ現象であり、ガス交換能低下や圧損増大の原因にはなるが、血液側に空気を発生・混入させて動脈側へ送る機序ではない。したがって空気塞栓の原因ではない(本設問の該当肢)。なお、空気混入のリスクとなるのは膜破断やガス側の管理不良といった別の異常であり、プラズマリーク自体とは区別される。
貯血槽内の液面(血液レベル)が低下すると、送血ポンプが空気を吸い込みやすくなり、除泡・検知が不十分だと動脈側へ空気が送られ空気塞栓となる。したがって原因となりうる。
左心ベントポンプ(一般にローラポンプ)の回転方向誤りにより、回路内や大気側から空気を心腔内へ押し込む可能性がある。心内空気は体外循環下で動脈側へ移行しうるため、空気塞栓の原因となる。したがって原因となりうる。
解説
誤っている組合せは「濃度計―浸透圧」。透析液の濃度監視は、電解質濃度に比例して変化する電気伝導度を電極で測定するのが一般的で、浸透圧を直接モニタする方式ではない。その他の組合せは、いずれも血液浄化装置で広く用いられる原理に合致する。漏血検出は透析液排液側の光透過測定で赤血球混濁に伴う透過率低下を検出、気泡検出は超音波の減衰・反射を利用、温度計はサーミスタ(NTCが一般的)で透析液温度の制御、圧力計はストレインゲージ式圧力変換器で動脈圧・静脈圧・TMPなどを監視する。
選択肢別解説
正しい組合せ。漏血検出器は透析液排液ラインに設置され、LEDとフォトセンサで光の透過量を測定する。透析膜破損などで血液が混入すると赤血球により混濁して透過率が低下し、しきい値超過でアラームを発する。
正しい組合せ。気泡検出器は超音波方式が一般的で、液体と気泡の音響インピーダンス差により伝搬の減衰・反射が生じることを用いて検出する。光学式もあるが、臨床機では非接触で配管外装着できる超音波式が広く使われる。
誤りの組合せ。透析液の濃度計は電極で交流を印加し電気伝導度を測定して電解質濃度を推定する。浸透圧は体液指標として用いられるが、透析装置の濃度監視の検出原理としては通常採用されない。
表記に誤りがあるが、原理としてはサーミスタが正しい組合せ。サーミスタ(thermistor)は温度によって抵抗値が変化する素子で、透析液温度(概ね35〜40℃)の測定・制御に用いられる。原文の「サーミスク」は誤記と考えられる。
正しい組合せ。圧力計にはストレインゲージ式圧力センサ(ひずみゲージ)が用いられ、動脈圧・静脈圧・透析膜間圧差(TMP)などを連続監視する。半導体ピエゾ抵抗式も使用されるが、ストレインゲージ式は一般的である。