臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
体外循環回路の各構成要素と代表的な材料の組合せを問う問題。熱交換器は耐腐食性と十分な伝熱性をもつステンレス管が広く用いられる。膜型人工肺は主に多孔質中空糸膜(例: ポリプロピレン系)が主流で、ガス交換効率と圧損・耐久のバランスがよい。遠心ポンプはシャフトシールを用いず、外部モータ側マグネットとポンプ内ロータのマグネットを磁気結合(マグネットカップリング)させて駆動するのが一般的である。血液回路(チューブ)は柔軟性と加工性の観点からポリ塩化ビニル(PVC)が標準的に用いられる。これらはいずれも妥当な組合せ。一方、バブルトラップは送血系・静脈系の空気除去を目的とする捕気チャンバやメッシュを主体とした構造で、シリコーン中空糸膜は用いない。シリコーン系の均質膜(あるいは非多孔質系の中空糸)は人工肺のガス交換膜としての用途であり、バブルトラップとの組合せは不適切であるため、5が誤り。
選択肢別解説
熱交換器は水槽側との間で熱を伝える要素で、耐腐食性・洗浄性の良いステンレス管が広く用いられる。アルミ等の採用例もあるが、ステンレス管は代表的材料であり組合せは妥当。
膜型人工肺では多孔質中空糸膜(代表例: ポリプロピレン、ポリオレフィン系)が主流で、ガス透過と血漿漏れ抑制のバランスが取れている。よってこの組合せは正しい。
遠心ポンプは外部モータ側のマグネットとポンプ内ロータ側のマグネットを磁気結合させてトルクを伝達する方式(磁気駆動)を用いるのが一般的で、シールレスで血液へのせん断を抑えやすい。よって組合せは正しい。
体外循環の血液回路チューブは柔軟性・加工性に優れたポリ塩化ビニル(PVC)が標準的。可塑剤の種類などは製品により異なるが、材料としての組合せは妥当。
バブルトラップは回路内の気泡を捕捉・除去するためのチャンバやメッシュ主体の構造で、外筒にポリカーボネート、内部フィルタにポリエステル等が用いられるのが一般的。シリコーン中空糸膜は人工肺の均質膜系素材としての用途であり、バブルトラップには用いないためこの組合せは不適切(誤り)。
解説
本問は治療機器・治療法とその主たる作用原理の対応を問う。誤りは「光線力学的治療—蒸散」。光線力学的治療(PDT)は光感受性物質を投与し、特定波長の光照射で一重項酸素などの活性酸素種を発生させて腫瘍細胞へ細胞毒性を与える光化学反応が主作用である。蒸散はレーザー熱作用による組織の気化・凝固・炭化といった熱的アブレーションであり、PDTの機序とは異なる。その他の組合せは、ガンマナイフ(放射線:Co-60のγ線を多方向から集中)、新生児黄疸の光療法(ビリルビンの光異性化・光分解=光化学反応)、ジェットネブライザ(ベンチュリー効果で薬液吸引・微粒化)、低圧持続吸引器(ダイアフラム式等の機械ポンプで陰圧発生)として妥当である。
選択肢別解説
正しい組合せ。ガンマナイフは多数のCo-60線源からのγ線(放射線)を定位的に収束させ、標的に高線量を与える定位放射線治療である。作用原理は放射線。
誤っている組合せ。光線力学的治療(PDT)は光感受性物質に光を照射して一重項酸素などの活性酸素を発生させ、腫瘍細胞に細胞毒性を及ぼす光化学反応が主作用である。蒸散はレーザー熱作用による組織の気化・蒸発でありPDTの主機序ではない。
正しい組合せ。新生児黄疸の光療法は、ビリルビンに光を当てて光異性化・光分解を起こし、水溶性の異性体(例:ルミルビリン)へ変換して排泄を促す光化学反応を利用する。
正しい組合せ。ジェットネブライザは高速のジェット気流により狭窄部で圧が低下するベンチュリー効果を用いて薬液を吸い上げ、気流のせん断で微粒化(エアロゾル化)する。
正しい組合せ。低圧持続吸引器はダイアフラム式やロータリーベーン式などの機械ポンプで安定した低陰圧を発生させ、持続吸引を行う。
解説
血液透析中の溶血は、赤血球膜が化学的あるいは物理的に損傷してヘモグロビンが血漿中へ逸脱する現象である。代表的原因は、(1) 透析液への塩素化合物(遊離塩素・クロラミンなど)の混入による酸化障害、(2) 低浸透圧(低ナトリウムなど)透析液による水分流入と赤血球膨化、(3) 透析液の過加熱(おおむね40℃超)による熱障害である。設問の選択肢のうち「塩素化合物の透析液への混入」は典型的な化学的溶血の原因であり正しい。他方、透析液の高浸透圧(高濃度)は赤血球を収縮させる方向で溶血を起こしにくく、膜破損は漏血(赤血球がそのまま透析液側へ流出)であって溶血とは機序が異なる。透析液温度の低下は冷感・悪寒などを招くが溶血の原因ではなく、空気誤入は空気塞栓などの危険であって溶血の主因ではない。なお、塩素化合物混入は活性炭・RO等の水処理不全や洗浄・消毒薬の残留で生じ得るため、原水管理と水処理装置の維持管理が重要である。
選択肢別解説
高濃度(高浸透圧)の透析液では、赤血球から水が出て収縮(皺形成)しやすく、溶血は起こりにくい。溶血はむしろ低浸透圧(低ナトリウムなど)の場合に赤血球が膨化して膜が破綻することで生じるため、本肢は溶血の原因とは言い難い。
ダイアライザ膜が破損すると、赤血球はそのまま透析液側へ漏出(漏血)する。これは赤血球が壊れる溶血とは機序が異なるため、溶血の原因とはいえない。
水道水由来の遊離塩素やクロラミン、あるいは配管・装置内に残留した塩素系薬剤が透析液に混入すると、赤血球膜を酸化的に障害して溶血を起こす。活性炭やROによる除去不全・管理不良で発生しうるため、典型的な透析関連溶血の原因である。
透析液温度の低下は患者に冷感・悪寒を生じうるが、溶血の原因ではない。溶血はむしろ透析液温度が高すぎる(おおよそ40℃超)ときに熱的障害で発生する。
透析回路への空気誤入は空気塞栓の危険が主で、回路の不均一流や凝固リスクを高めることはあっても、赤血球膜を化学的・物理的に破壊する典型的原因ではない。したがって溶血の原因とはいえない。
解説
人工心肺(完全体外循環)中の安全管理では、空気誤送、動脈解離、脱血不良、人工肺血栓などの重大事象に対し、原因に即した初期対応が求められる。空気は貯血槽の液面低下だけでなく、脱血側の陰圧(VAVD)による吸気、回路接続部の緩み、ベントや心筋保護系からの逆流・逆転、人工肺内の脱ガスなど多経路で発生し得るため、貯血槽が空でなくても誤送は起こり得る。動脈解離が疑われる場合は解離腔の拡大を避けるため送血流量を直ちに低下または停止し、送血部位の変更準備や低体温化、圧モニタ・TEE等での確認を行う。脱血不良では原因(カニューレ先端の壁貼り付き、屈曲・閉塞、陰圧過大、循環血液量不足など)を同定し、カニューレの前後位置調整(しばしば浅く引き戻す)、回路確認、陰圧・ポンプ流量の整合、容量補充等で対処する。人工肺内血栓は圧力差上昇やガス交換不全を伴い致命的になり得るため、抗凝固状態の確認(ACT 等)を行いつつも基本対応は人工肺の速やかな交換であり、ヘパリン追加のみでは既存血栓は解決しない。脱血回路に持続的な微小気泡が見られる場合は陰圧過大や接続部吸気が疑われるため、陰圧やポンプ流量の調整、接続部の増し締め、容量補充、カニューレ位置調整など脱血側の是正を優先する。動脈側に空気が到達した場合に初めて送血停止が適応となる。
選択肢別解説
正しい。空気誤送は貯血槽の液面低下以外にも、脱血側の陰圧(VAVD)による吸気、回路接続部の微小リーク、ベント・心筋保護回路からの逆流やポンプ逆転、人工肺での脱ガスなど多経路で発生し得る。したがって貯血槽が完全に空でなくても空気が動脈側へ移行する危険はある。常にエアトラップ・フィルタ・監視を併用し、流量と陰圧の整合、接続部の点検を行う。
誤り。動脈解離が発生・疑われる場面で送血流量を増やせば解離腔へ灌流が集中し解離が進展する危険が高い。適切な対応は送血流量を低下または停止し、動脈圧を下げた上で送血部位変更(例:腋窩・大腿)、低体温化や循環停止の準備、TEEや圧ラインでの評価を行うことである。
誤り。脱血不良に対してカニューレをむやみに深く挿入すると、血管壁への貼り付きや狭小部への迷入でさらに流入が悪化することがある。まずはカニューレの前後位置を微調整(多くはやや引き戻す)、屈曲や陰圧過大の是正、循環血液量の補充、VAVD設定やポンプ流量の整合、必要に応じ二本目カニューレの追加などで対処する。
誤り。人工肺内血栓形成が疑われる場合、最優先は人工肺(必要により回路)の速やかな交換である。ACT低下など抗凝固不足があれば是正(ヘパリン追加)するが、追加投与のみでは既に形成された血栓は解消せず、塞栓やガス交換・圧損悪化の危険が続く。
誤り。脱血回路の持続的微小気泡は陰圧過大や接続部の吸気を示唆するため、まず脱血側の原因是正(陰圧や送血流量の調整、接続部の締結確認、容量補充、カニューレ位置調整等)を行う。動脈側への空気到達が確認・疑われる場合に送血停止を行うのであって、微小気泡が脱血側に限局する段階で直ちに送血を停止するのは一般的対応ではない。
解説
血液浄化装置の代表的な監視原理は、漏血は透析液の光学的変化(吸光度/光透過率)、気泡は超音波式、温度はサーミスタ式、圧力はストレインゲージ式で監視するのが一般的である。透析液の「濃度計」は電解質濃度に比例する電気伝導度(導電率)を測る方式が標準であり、浸透圧測定は透析装置のオンライン監視には用いない。よって「濃度計—浸透圧」の組合せが誤り。その他の組合せは適切。
選択肢別解説
漏血検知器は透析液側に血液が混入するとヘモグロビンによる吸光が増し、光透過率が低下する性質を利用して検知する。したがって「漏血検知器—光透過」の組合せは正しい。
気泡検知はチューブを挟み込むクランプ型の超音波センサで、液体に気泡が混入すると超音波の伝搬・反射が変化することを利用して検出する(光学式が用いられる場合もある)。よって「気泡検知器—超音波」は正しい。
透析液の『濃度計』は実質的に電気伝導度計であり、電解質濃度に比例して変化する導電率を連続監視する。浸透圧は凍結点降下法などのオスモメータで測るもので、透析装置のオンライン濃度監視には通常用いない。従って「濃度計—浸透圧」は誤り。
透析液温は温度により抵抗が大きく変化するサーミスタで高感度に測定するのが一般的。よって「温度計—サーミスタ」は正しい。
圧力センサは膜の歪みを電気抵抗の変化に変換するストレインゲージ(歪みゲージ)を用いるのが標準的。従って「圧力計—ストレインゲージ」は正しい(原文のカナ表記に誤りがあるが原理としては適切)。
解説
誤りは選択肢2。炭酸水素ナトリウムはアルカリ化剤であり、体外循環中の代謝性アシドーシスの是正に用いる。代謝性アルカローシス(pH上昇)時に投与するとアルカローシスを増悪させる。その他の選択肢は、体外循環で実際に行われる妥当な対処である。溶血にはローラーポンプの圧閉度調整や過度な吸引の回避、Hct低下には希釈や出血量・水分バランスの再評価(必要なら限外濾過・輸血)、ACT不十分にはヘパリン追加(ヘパリン抵抗性の鑑別も考慮)、脱血不良にはカニューレ位置・深さや回路の屈曲・陰圧条件等の点検が基本対応となる。
選択肢別解説
適切。体外循環中の溶血は、ローラーポンプの過度な圧閉や強い陰圧吸引(ベント・サッカー)によるせん断応力が主因の一つ。圧閉度(オクルージョン)を適正化し、不要な陰圧や過度な吸引を避けることが対処の基本である。
不適切。炭酸水素ナトリウムは代謝性アシドーシス是正に用いるアルカリ化剤であり、代謝性アルカローシス時の投与はpHをさらに上昇させて増悪させる。代謝性アルカローシスでは原因(利尿薬・過度の塩基負荷・低クロール血症など)の是正、必要に応じて電解質補正や回路条件の見直し(例:不要なNaHCO3投与の中止)を行う。
適切。体外循環中のヘマトクリット(Hct)低下は希釈や出血の影響が大きいため、水分バランス(入力・出力、プライミング量、補液・輸血量、限外濾過の実施状況)をチェックすることが重要。必要に応じて限外濾過で濃縮したり、目標Hctを踏まえ赤血球輸血を検討する。
適切。ACTが延長しない(短い)場合は抗凝固が不十分で血栓形成リスクが高い。ヘパリンの追加投与でACTを目標値まで延長させる。追加しても延長が乏しい場合はヘパリン抵抗性(ATIII低下など)を疑い、AT製剤やFFPの投与を検討する。
適切。脱血不良はカニューレ先端の血管壁吸着・位置や深さの不適切、回路の屈曲・閉塞、静脈圧低下、体位、陰圧補助条件(VAVD)の過不足などが原因となる。まず脱血カニューレの挿入部位・位置を確認し、併せて回路・体位・圧条件を点検する。
解説
加温加湿器のトラブルは、電気系の不具合による感電、温度制御不良による高温ガス送達での気道熱傷、加湿不足で分泌物が乾燥・粘稠化して生じる気道閉塞、温度設定不良や回路温度勾配による回路内の異常結露(いわゆる“レインアウト”)などが典型である。これらはいずれも気道抵抗の増大や回路内抵抗の上昇、水溜まりによる流路狭窄などを介して呼吸仕事量を増やしうる。したがって「呼吸仕事量の減少」は、トラブルとしては考えにくい選択肢となる。
選択肢別解説
感電は、ヒータプレートや加温ホース(ヒータワイヤ)など電気部品の絶縁劣化・漏電で起こりうる代表的トラブルである。患者・スタッフ双方にリスクがあるため、定期点検やアース・漏電遮断器の確認が重要。よってトラブルとして成立する。
温度センサの不良、設置位置の誤り、設定ミスなどで過加温となると、高温の吸入ガスが気道に到達し気道熱傷を生じうる。特に新生児・小児や侵襲的人工呼吸中はリスクが高い。したがってトラブルとして成立する。
加湿不足は分泌物の乾燥・粘稠化を招き、気管チューブ内腔や気道内で痰栓形成を起こし、狭窄・閉塞につながる。これにより気道抵抗が増大し換気障害を来すため、トラブルとして成立する。
加温加湿器のトラブルは一般に気道抵抗や回路抵抗を増やし、呼吸仕事量を増加させうる(例:水貯留による流路狭窄、痰栓、温度制御不良)。一方「呼吸仕事量の減少」はトラブル像として整合しないため、考えにくい。
患者側回路が十分に加温されない、ヒータワイヤの制御不良、環境温度の影響などで露点を下回る部分が生じると、回路内に過剰な結露(レインアウト)が発生する。水溜まりは換気性能に悪影響を与えるため、典型的なトラブルである。
解説
カプノメータの波形消失は、呼気CO2が全く検出されていないことを示し、最優先で「患者−人工呼吸器間の気路が断たれた」事態(事故抜管や呼吸回路の外れ)を疑う所見である。今回、SpO2は86%と低下している一方で、心拍数は110回/分、収縮期血圧は170mmHgと循環は直後には保たれている。心停止や重度ショックではカプノメータが低下・消失し得るが、この循環所見とは整合しない。片肺挿管やファイティングでは換気自体は継続するため、カプノメータ波形は乱れたり振幅低下はあっても通常は消失しない。緊張性気胸では典型的に血圧低下(ショック)を伴い、本症例の高血圧所見と矛盾する。したがって、最初に考えるべき原因は事故抜管と呼吸回路の外れである。
選択肢別解説
正しい。事故抜管では患者の気道と呼吸回路が断たれ、呼気CO2がサンプルされないためカプノメータ波形は消失する。換気停止によりSpO2は速やかに低下するが、発症直後は循環が比較的保たれていることが多く、今回の頻脈・高血圧所見(低酸素・苦悶反応)とも整合する。最優先で疑い、直ちに気道再確保と回路再接続の評価・対応が必要。
誤り。片肺挿管では一側肺への換気となるため低酸素血症や気道内圧上昇を来しうるが、換気自体は継続しており呼気CO2は検出されるのが通常で、カプノメータ波形は消失しない(振幅低下や形状変化にとどまることが多い)。したがって本症例の「波形消失」とは合致しない。
誤り。ファイティング(患者−人工呼吸器不同調)では換気は継続しているため、カプノメータ波形は乱れたり不規則になるが消失はしない。波形の完全消失は、気道断裂(抜管・回路外れ)やサンプリングライン脱落などをまず疑うべき所見である。
誤り。緊張性気胸では胸腔内圧上昇により静脈還流低下をきたし、しばしば血圧低下・ショックとなる。設問では収縮期血圧170mmHgと高値であり典型像と矛盾する。カプノメータは振幅低下や換気不良を示し得るが、波形が完全に消失するのは通常、気道が断たれた場合である。
正しい。呼吸回路の外れ(回路断裂・コネクタ抜け)は患者と人工呼吸器の接続が断たれるため、呼気CO2のサンプリングができずカプノメータ波形が消失する。SpO2低下は説明可能で、発症直後に循環が保たれる点も所見と一致する。最初に確認・是正すべき重大トラブルである。