臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
透析用患者監視装置に用いられるセンサーの原理と対象の組合せを問う問題。漏血検知は透析液廃液中の血液混入を光学的に検知するため透過光方式(赤外LEDと受光素子)を用いる。気泡検知は液体と気体で音響インピーダンスが大きく異なることを利用する超音波方式が一般的。温度計は温度による抵抗変化を利用するサーミスタ、圧力計はダイヤフラムの歪みを電気信号に変換するストレインゲージを用いる。一方、透析液の濃度管理は電解質による電気伝導率(電導度)の測定と温度補償で行うため、「濃度計—浸透圧」は誤りであり、これが不適切な組合せとなる。
選択肢別解説
正しい組合せ。漏血検知器は発光素子と受光素子からなるオプトセンサーで透過光量を監視する。透析液廃液中に血液が混入すると赤血球等により光の吸収・散乱が増え、受光量が低下して漏血異常として検知される。
正しい組合せ。気泡検知器は超音波の伝搬特性を利用する。液体中は超音波が伝わるが、気泡が存在すると音響インピーダンスの不連続で反射・減衰が生じ、受信信号が変化することで気泡を検出する。血液回路の静脈側監視で用いられる。
誤った組合せ。透析液の濃度計は浸透圧を直接測らず、ナトリウムなど電解質による電気伝導率(電導度)を測定し、サーミスタ等で温度補償して濃度を管理する。したがって「濃度計—浸透圧」は不適切。
正しい組合せ。サーミスタは温度によって抵抗値が変化する素子(多くはNTC型)で、透析液温度の測定・制御に広く用いられる。
正しい組合せ。圧力計はダイヤフラムの微小変形をストレインゲージで電気信号に変換する歪みゲージ式圧力センサーが用いられ、血液回路や透析液回路の陽圧・陰圧監視に適している。
解説
人工肺のガス交換不良(酸素化不良・脱炭酸不良)の初期点検では、まずガス供給系(酸素源・ブレンダ・配管)の断続や設定不良、スウィープガス流量不足を確認し、次に人工肺本体の異常(破損、血漿漏出、目詰まり)を評価するのが基本である。これらはガス側拡散や膜面機能に直接影響し、ガス交換効率低下の主要因となる。一方、貯血槽の液面レベルは回路の血液側管理(脱血の安定、送血ポンプの空気混入防止)に関わる項目で、ガス交換機能そのもののトラブルシュートの直接項目とはいえないため、本設問における点検項目としては不適切である(誤り)。
選択肢別解説
適切。酸素供給ラインの抜け・閉塞・誤接続はスウィープガスが人工肺へ届かず、酸素化低下やCO2排出低下を招く。ガス交換不良時は最初に接続状況と供給源の圧・開閉状態を点検する。
適切。供給酸素流量(スウィープガス流量)が不足するとCO2除去が低下し、場合によっては酸素化も制限される。ガス交換トラブル時の基本点検項目であり、流量計の指示値と実流量を確認する。
適切。人工肺の破損(筐体クラック、接続部の破綻、膜不良)は血液・ガスのリークやガス交換性能低下の原因となる。外観、結露・泡の異常、圧力差の変化などで評価し、疑わしければ交換を検討する。
適切。ガス側への血漿漏出(プラズマリーク)は膜面が濡れて拡散抵抗が増大し、酸素化・脱炭酸の双方が低下する重要な異常である。ガス出口側の湿潤・泡立ちや圧力上昇で示唆されるため、点検必須である。
不適切(設問の誤り)。貯血槽の液面レベルは脱血の安定化や送血ポンプの空打ち・空気混入防止のために監視すべき血液側管理項目であり、人工肺のガス交換機能の直接的トラブルシュート項目ではない。極端な低液面が回路血流を低下させて二次的に酸素化不良を招く可能性はあるが、ガス交換不良時にまず点検すべきはガス供給系と人工肺自体であるため、本問の文脈では誤りに該当する。
解説
量規定調節換気(VCV)では一回換気量V_Tと(多くの機種で)吸気流量$\dot{V}$が規定され、気道内圧は気道抵抗RとコンプライアンスCにより決まる。概念式はピーク気道内圧について $P_{peak} = \dot{V} \times R + \frac{V_T}{C} + PEEP$。したがって、Rの低下(気管支攣縮の軽快)やCの上昇(無気肺の改善)はP_{peak}の低下をもたらす。また回路やカフからの漏れは、回路内圧が十分に立ち上がらず気道内圧は低く出やすい。一方、気管チューブ先端が片肺へ移動すると実質的に換気対象容積が減少してCが低下し、必要な弾性圧が増加するため気道内圧は上昇する。よって、気道内圧低下の原因としては誤りである。
選択肢別解説
無気肺の改善により肺胞の開存が増え、肺胸郭コンプライアンスCが上昇する。量規定では $P_{elastic} = \frac{V_T}{C}$ が低下し、ピーク気道内圧も低下する。従って「気道内圧低下の原因」として妥当。
気管支攣縮の軽快で気道抵抗Rが低下する。量規定・一定流量下では抵抗成分 $\dot{V} \times R$ が小さくなり、ピーク気道内圧は低下する(プラトー圧はCが不変なら大きくは変わらない)。よって気道内圧低下の原因で正しい。
$呼吸器回路からのガス漏れがあると、設定V_Tを送気しても回路内で漏れ、圧が十分に立ち上がらず測定される気道内圧は低く出やすい(低V_T \cdot リークアラームを伴うことが多い)。従って気道内圧低下の原因となる。$
気管チューブ先端の片肺への移動(片肺挿管)では有効に換気される肺容量が減り、系のコンプライアンスCが低下する。その結果、同一V_Tでは弾性成分 $\frac{V_T}{C}$ が増加し気道内圧は上昇する。よって『気道内圧低下の原因』としては誤り。
$カフからの空気漏れがあると送気ガスの一部が上気道へ逃げ、回路 \cdot 気道内圧の立ち上がりが不十分となるため気道内圧は低下する。低V_Tやリーク音を伴うことが多い。したがって気道内圧低下の原因で正しい。$
解説
正しい組合せは「経皮的酸素分圧測定装置 — 熱傷」。経皮的酸素分圧測定装置(tcPO2)は皮膚局所を約43℃前後に加温して毛細血管血を動脈化し測定するため、長時間装着や固定圧過大などで低温熱傷(びらん・水疱を伴うこともある)を生じうる。これが本装置で特に注意すべき代表的な傷害である。その他の選択肢は、機器の代表的リスクや現象との対応が不適切である。非観血式血圧モニタの主な合併症はカフ過加圧による皮下出血・末梢循環障害・神経障害などで、不整脈は傷害ではなく測定を困難にする要因に過ぎない。パルスオキシメータはセンサの発熱・圧迫・テープ刺激などで紅斑・接触皮膚炎・まれに熱傷が問題となるが、キャビテーションは超音波による現象で関係しない。レーザ手術装置は眼障害や組織熱傷・可燃物発火などが主要リスクで、ミクロショック(心内に通電経路があるときの微小電流による致死的不整脈)は電気設備・体内導線が関与する電撃リスクでありレーザ固有のものではない。超音波吸引手術装置は超音波振動による組織破砕と同時に熱影響が生じうるため熱傷が注意点で、紅斑は本機器の代表的危害とは言いにくい。
選択肢別解説
非観血式血圧モニタ(NIBP)の注意すべき傷害は、カフ過加圧や長時間装着による皮下出血、末梢虚血、神経圧迫障害など。不整脈は測定精度低下や測定不能の原因であり「傷害」そのものではないため、組合せは不適切。
パルスオキシメータはLED/受光素子部の発熱や固定圧、粘着材刺激により紅斑・接触皮膚炎・まれに熱傷が注意点。キャビテーションは超音波に関連する現象で、パルスオキシメータの作動原理(光吸収の脈波解析)とは無関係。よって不適切。
経皮的酸素分圧測定装置(tcPO2)は皮膚を約43℃前後に加温して毛細血管血を動脈化するため、長時間装着や過度な圧迫で低温熱傷の危険がある。代表的な有害事象として妥当な組合せであり正しい。
レーザ手術装置の主な危険はレーザ光による眼障害、皮膚・組織の熱傷、手術室内の可燃物発火など。ミクロショックは心内カテーテル等を介した微小電流が心筋に流入して致死的不整脈を誘発する電撃リスクで、レーザ固有のリスクではないため不適切。
超音波吸引手術装置は超音波による組織破砕と熱影響で熱傷等が注意点。紅斑は主として圧迫・粘着・軽度発熱による皮膚刺激で、パルスオキシメータなどでよく見られる。よって本組合せは代表的リスクの対応として不適切。
解説
誤っている組合せは「口渇—低濃度透析液の使用」。口渇は透析中・透析後に血漿浸透圧が高くなる場合(例: 透析液Na濃度やブドウ糖濃度が高い=高浸透圧条件)で生じやすい。低濃度(低Na)透析液の使用では、むしろ血漿浸透圧の低下により透析不均衡症候群(頭痛、悪心、意識障害など)や筋けいれん、低血圧が問題となる。その他の組合せ(漏血—膜破損、回路内凝血—抗凝固不足、空気誤入—接続不良、自己抜針—認知症)は臨床でよくみられる因果関係として妥当である。
選択肢別解説
誤りの組合せ。口渇は高Naや高ブドウ糖などの高浸透圧透析液により血漿浸透圧が上昇し、浸透圧性口渇として出現しやすい。低濃度(低Na)透析液では血漿浸透圧が低下し、主に透析不均衡症候群、筋けいれん、低血圧が問題となる。
正しい組合せ。ダイアライザ膜のピンホールや破損により血液が透析液側へ漏れ(漏血)、血液漏れ検知器のアラーム作動や透析液の血色素汚染として検出される。
正しい組合せ。ヘパリン等の抗凝固薬の入れ忘れ・投与不足や投与経路不良は回路内凝血の典型的原因である。ポンプ停滞や低流量も凝血を助長する。
正しい組合せ。脱血側の穿刺針と回路の接続不良や上流側ポートの密閉不良は空気誤入(空気塞栓)の原因となる。特に血液ポンプ上流での接続不良は危険で、空気検知器アラームや回路内気泡として発見される。
正しい組合せ。認知症やせん妄、意識障害では不穏・予測不能な体動により自己抜針が起こりやすい。固定の強化、見守り、アラーム設定などの予防策が必要。
解説
人工心肺中に人工肺を交換すべき状況は、人工肺そのものの機能低下や安全性低下が不可逆的・重大で、運転条件の調整や一時的対処で回復が見込めない場合である。代表例は膜の親水化や劣化による血漿漏出、気相側の結露や膜面の濡れ進行によるいわゆるwet lung、リザーバ/除泡部の機能低下による微小気泡混入リスクの増大などで、いずれもガス交換能や安全性の顕著な低下を招くため交換対象となる。一方、溶血は多くがポンプ操作・陰圧・カニュラ条件など回路運用由来であり人工肺交換の直接適応ではない。回路内空気混入も通常は再循環・エアパージ・動脈フィルタ等で除去可能で、人工肺交換は原則不要である。
選択肢別解説
溶血はポンプ圧閉度不良、過度の陰圧吸引、カニュラ不適合、吸引血の扱いなど回路運用要因が主因で、人工肺交換の一次適応ではない。原因是正(ポンプ条件是正、吸引調整、カニュラ見直し)と支持療法で対処し、人工肺自体の故障所見がない限り交換は不要と判断する。
血漿漏出は膜型人工肺の膜が親水化・劣化し、細孔から血漿成分がガス側へ滲出する現象で、泡立ちやガス交換能低下、圧力損失増大を招く。運転条件の調整で回復しにくく、安全性・性能低下が持続するため人工肺の交換適応となる。
"wet lung"(ウェットラング)は人工肺の気相側での結露や膜面の濡れ進行によりガス拡散が阻害され酸素化・二酸化炭素除去が低下する状態を指す。酸素フラッシュや加温等で改善することもあるが、顕著で回復しない場合はガス交換能の確保のため人工肺交換を要する。
除泡能の低下(リザーバ/デフォーマ部や統合除泡機能の劣化・飽和など)は送血側への微小気泡移行リスクを高め、脳塞栓等の重大合併症につながる。対処で回復しない場合は安全性確保の観点から人工肺(または該当ユニット)の交換が必要となる。
回路内空気混入は、再循環ラインでの脱気、動脈フィルタやベント操作、エアパージ等で除去可能であり、人工肺自体の機能不全がない限り交換は不要。まずは原因部位の同定・除去と回路管理で対処するのが適切である。
解説
医療機器ごとに典型的に注意すべき有害事象を問う問題。観血式血圧モニタは体内(血管)に導電経路を形成するため漏れ電流によるミクロショック対策が重要、パルスオキシメータは装着部の発赤(紅斑)や圧迫・発熱による皮膚トラブル、経皮的酸素分圧測定装置は電極の加温による熱傷、レーザー手術装置は強い光線による眼障害が代表的リスクであり、いずれも適切な組合せである。一方、超音波凝固切開装置はブレードの超音波振動により機械的振動と摩擦熱でタンパク質を変性・凝固させる装置で、注意すべき主作用は熱・機械的損傷であり、キャビテーションを前提としたリスクは一般的でない。したがって不適切な組合せは「超音波凝固切開装置—キャビテーション」である。
選択肢別解説
適切。観血式血圧モニタは血管内にカテーテルを留置して測定するため、体内への導電経路が形成される。微小な漏れ電流でも心筋刺激となり得るため(ミクロショック)、機器の絶縁・漏れ電流管理や等電位化が重要となる。
適切。パルスオキシメータは長時間の装着や血流不良時にセンサ部の発熱・圧迫・光照射の影響で装着部に紅斑(発赤)などの皮膚トラブルが起こり得るため、装着部位のローテーションや圧迫軽減が必要である。
適切。経皮的酸素分圧測定装置(tcPO2)は電極周囲をおおむね41〜43℃に加温して計測するため、装着条件や時間によっては局所の熱傷リスクがある。定期的な部位移動と温度・時間管理が必要である。
適切。レーザー手術装置は波長帯によっては網膜にまで到達し眼障害を生じ得る。適切な遮光・波長適合の保護眼鏡の着用やビーム管理が必須である。
不適切(正答)。超音波凝固切開装置は超音波振動子の機械的振動とそれに伴う摩擦熱で組織タンパク質を変性・凝固させ止血・切開を行う。注意すべき主なリスクは熱・機械的損傷であり、診断用超音波の高出力時に問題となるようなキャビテーションは本装置の作用機序として想定されない。従って「キャビテーション」は不適切な組合せである。
解説
血液透析回路では、患者の動脈穿刺部から血液ポンプ入口までは吸引により陰圧、ポンプ出口から静脈側穿刺部までは陽圧となる。陰圧領域で開放部(接続不良やクランプ閉鎖忘れなど)が生じると外気が吸引され、回路内に空気が侵入する。よって、動脈側穿刺針と回路の接続不良や、動脈側に接続される補液ラインの閉鎖忘れは典型的な原因となる。一方、静脈側は陽圧であるため接続不良があると血液漏出が主で空気侵入は起こりにくい。透析膜破損は血液が透析液側へ漏れるトラブルであり、空気侵入の直接原因ではない。
選択肢別解説
不正解。抗凝固薬注入ラインは一般に動脈側(陰圧部)へ接続されるため理論上は空気侵入の経路となり得るが、実際には逆止弁や閉鎖型コネクタなどの安全機構が介在し、単なる「ラインの外れ」が直ちに大気開放とはならない設計が多い。典型的原因としては扱われない。
不正解。透析膜破損は血液が透析液側へ漏出する(血液漏れ)の原因であり、回路内への空気侵入の直接原因ではない。通常、透析液は脱気されており空気が血液側へ流入する想定ではない。
正解。動脈側は血液ポンプにより陰圧となるため、動脈側穿刺針と回路の接続不良があると外気が吸引されて空気が回路内に侵入する。空気誤入の典型的原因である。
正解。補液ラインは通常、動脈側(陰圧部)に接続される。クランプの閉鎖忘れや三方活栓の開放状態では陰圧により外気が吸引され、空気侵入の原因となる。
不正解。静脈側は血液ポンプ以降で陽圧となるため、接続不良があると血液の漏出・噴出が起こりやすく、空気侵入は起こりにくい。
解説
人工鼻(HME)は呼気の熱と水分を保持して吸気側に返す受動型の加湿器であり、Yピース直後など回路先端に装着するため、その容積が機械的死腔として加算されやすい。結果として肺胞換気が減少し、特に一回換気量が小さい患者ではPaCO2上昇のリスクが高まる。これが加温加湿器と比べた際に人工鼻で起こりやすい代表的な有害事象(死腔増加)である。一方、うつ熱や過剰加湿は能動的に熱・水分を供給する加温加湿器で生じやすいトラブルであり、人工鼻では起こりにくい。換気中断や回路誤接続は人工鼻に特有で起こりやすいとはいえず、一般的な回路管理上の問題である。
選択肢別解説
誤り。うつ熱(高温ガスの吸入による過熱)は主に加温加湿器の故障や設定不良で生じる事象で、受動型の人工鼻には加温機能がないため起こりにくい。
正しい。人工鼻はYピース近傍に装着され、その実容積が機械的死腔として加算されるため、死腔量が増加し肺胞換気が低下しやすい。特に小さな一回換気量ではPaCO2上昇の有害事象につながる。
誤り。人工鼻の加湿能力は加温加湿器より低く、過剰加湿は起こりにくい。むしろ条件によっては加湿不十分が問題となる。
誤り。人工鼻の目詰まりなどで抵抗上昇はあり得るが、装着・交換は容易であり、加温加湿器と比べて人工鼻で換気中断が起こりやすいとはいえない。
誤り。回路誤接続は装置に共通する一般的なヒューマンエラーであり、人工鼻で特に起こりやすい有害事象とはいえない。