臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
弾性域ではフックの法則によりひずみは応力に比例し、その比例係数の逆数がヤング率である($\varepsilon = \sigma / E$)。したがってヤング率が大きいほど同じ応力で生じるひずみは小さく、選択肢1は誤り。生体軟組織は水分に富み体積変化しにくいため非圧縮近似($\nu \approx 0.5$)がよく用いられる。筋は粘弾性体で、荷重・除荷で応力–ひずみ曲線が一致せずヒステリシスを示す。筋は腱より剛性が低く、同一引張応力でより大きく変形する。血液の動的粘度は水より大きいが依然として小さく、軟組織の実効粘性(粘弾性モデルで表す粘性要素)より一般に小さいと考えられ、選択肢5は正しい。
選択肢別解説
誤り。ヤング率 $E$ は応力–ひずみ曲線の傾きで、$\varepsilon = \sigma / E$。したがって $E$ が大きい(硬い)ほど、同じ応力 $\sigma$ に対して生じるひずみ $\varepsilon$ は小さい。選択肢は「ひずみが大きい」としており逆の記述。
正しい。生体軟組織は水分が多く体積変化が極めて小さいため、非圧縮体近似が成り立ち、ポアソン比は理論上の非圧縮値 $\nu=0.5$ に近い(実測でも概ね 0.45〜0.5 程度)。
正しい。筋組織は粘弾性体であり、荷重と除荷で応力–ひずみ関係が一致せずエネルギー損失を伴うヒステリシスループが現れる。これは粘性成分による時間依存(履歴依存)性に起因する。
正しい。腱はコラーゲン線維が緻密で高い剛性を示すのに対し、筋はよりコンプライアンスが高い。よって同一の引張応力に対して筋の方がひずみ(変形割合)が大きい。
正しい。血液の動的粘度は数 mPa\,s 程度(せん断速度依存の非ニュートン性あり)で、粘弾性体として記述される生体軟組織の実効粘性パラメータは一般にこれより大きく見積もられる。よって「血液の粘性係数は生体軟組織に比べて小さい」は適切。ただし比較はモデル依存であることに留意する。
解説
本問は生体の機械的特性と粘弾性モデルの基礎理解を問う。血漿はずり速度によらず粘度がほぼ一定であるためニュートン流体として近似できる。一方、血液全体は血球の凝集・変形により非ニュートン性(主にせん断薄化)を示す。水分を多く含む軟組織は実質的にほぼ非圧縮性で、ポアソン比は0.5近傍となる。線形弾性ではフックの法則 $\sigma=E\varepsilon$ より、同じ応力下でヤング率が大きいほどひずみは小さい。粘弾性モデルでは、マックスウェルモデルはばねとダンパーの直列接続、フォークト(ケルビン–フォークト)モデルが並列接続である。組織構成では、膠原線維は剛性を高め伸展性を低下させ、エラスチンが伸びやすさに寄与する。
選択肢別解説
正しい。血漿はずり速度に対する粘度がほぼ一定で、ニュートン流体として扱える。対照的に、血液全体は血球成分の影響で非ニュートン性(せん断薄化)を示す。
誤り。水を多く含む生体軟組織は実質的に非圧縮性でポアソン比は0.5付近となる。「ほぼ1」は物理的に不適切で、線形等方弾性体では $\nu\le 0.5$ が安定条件である。
誤り。フックの法則 $\sigma=E\varepsilon$ より、同じ応力 $\sigma$ では $\varepsilon=\sigma/E$。したがってヤング率 $E$ が大きいほどひずみは小さく、変形しにくい。
誤り。マックスウェルモデルは弾性要素(ばね)と粘性要素(ダンパー)の直列接続。並列接続なのはフォークト(ケルビン–フォークト)モデルである。
誤り。膠原線維は引張剛性が高く、組織のヤング率を増加させるため伸展性(伸びやすさ)は低下する。伸展性の増大にはエラスチンの寄与が大きい。
解説
生体組織は一般に、方向依存性(異方性)、非線形性、粘弾性といった特徴的な力学的性質を示す。筋は線維配向により力学応答が方向で変わる異方性を示す。血管は低応力域では柔らかく高応力域では急速に硬くなる応力-ひずみ関係の非線形性を示す。皮膚・筋膜などの軟部組織は粘弾性体として扱われ、基本的表現としてダッシュポットとバネの並列(フォークト)モデルが用いられる。また、筋の等張性収縮では荷重Fと収縮速度vの関係がHillの式 $v=\frac{b(F_0-F)}{F+a}$ に従う。一方、骨のヤング率はおよそ $10^{10}\,\mathrm{N/m^2}$ 程度で、鉄材(およそ $2\times10^{11}\,\mathrm{N/m^2}$)より1桁以上小さい。したがって「骨のヤング率は鉄材の値とほぼ同じ」という記述は誤りである。
選択肢別解説
正しい。筋は筋線維が一定方向に配向した構造を持つため、線維方向とそれに直交する方向で剛性や伸びやすさが異なる異方性を示す。機械的負荷に対する応答(応力-ひずみ関係やせん断特性)も方向依存である。
正しい。血管壁はエラスチン優位の低応力域では伸びやすいが、応力上昇に伴いコラーゲン繊維が順次動員され剛性が増すため、応力-ひずみ関係は非線形となる。したがってコンプライアンスも圧に依存する。
正しい。軟部組織は代表的に粘弾性体として扱われ、弾性要素(バネ)と粘性要素(ダッシュポット)を並列に接続したフォークト(Kelvin–Voigt)モデルで基本的性質(クリープなど)を表現できる。実組織の挙動を精密に表すには拡張モデルが用いられるが、教科書的記述としては妥当である。
誤り。骨のヤング率はおよそ $\sim10^{10}\,\mathrm{N/m^2}$ 程度で、鉄材(鋼など)のヤング率 $\sim2\times10^{11}\,\mathrm{N/m^2}$ と比べて1桁以上小さい。よって「ほぼ同じ」は成り立たない。
正しい。筋の等張性収縮では、荷重Fと収縮速度vの関係がHillの式 $v=\frac{b(F_0-F)}{F+a}$(等価に $(F+a)(v+b)=(F_0+a)b$)で表される。負荷が増えると収縮速度が低下するという経験則を定式化した関係である。
解説
生体軟組織は水分に富みほぼ非圧縮性であるため、ポアソン比はおよそ0.5に近づくのが特徴で、これが正しい。弾性定数の関係式 $K=\dfrac{E}{3(1-2\nu)}$ より、$\nu\approx0.5$ では体積弾性率 $K$ はヤング率 $E$ よりはるかに大きくなる。骨は非常に硬く(皮質骨で $E\sim10^{10}$ Pa 台)、筋は受動状態で軟らかい($E\sim10^{4}\text{--}10^{6}$ Pa 程度)ため、「筋の方が骨より大きい」は誤り。筋は繊維配向により異方性を示し、受動状態・小ひずみ範囲では走行方向の方が変形しやすく、直交方向が相対的に高い剛性を示すと理解されるため、走行方向のヤング率が大きいとする記述は誤り。動脈の円周方向変形は生理的には拍動で数%〜十数%だが、最大(限界や病的状況)でははるかに大きくなり得るため「最大が10%程度」は不適切である。
選択肢別解説
誤り。骨のヤング率は筋よりはるかに大きい。代表値として皮質骨で $E\approx10\text{--}20\,\mathrm{GPa}$、筋(受動状態)で $E\approx10^{4}\text{--}10^{6}\,\mathrm{Pa}$ 程度とされ、オーダーが数桁異なる。したがって「筋組織は骨よりもヤング率が大きい」は成り立たない。
誤り。筋は繊維配向により異方性を示す。受動状態・小ひずみでは繊維走行方向は伸びやすく、繊維に直交する方向は細胞外基質や配向構造により変形しにくいとされる。このため直交方向の方が実効ヤング率が大きくなりやすく、「走行方向の方が大きい」という断定は不適切。
正しい。生体軟組織は水分を多く含み体積変化が小さい(ほぼ非圧縮性)。非圧縮性材料のポアソン比は理論上 $\nu\to0.5$ に近づくため、「およそ0.5」は妥当である。
誤り。弾性定数の関係 $K=\dfrac{E}{3(1-2\nu)}$ より、軟組織では $\nu\approx0.5$ のため分母が小さくなって $K\gg E$ となる。例えば $\nu=0.49$ なら $K\approx E/0.06\approx16.7E$。よって体積弾性率がヤング率より小さいという記述は誤り。
誤り。動脈の円周方向変形は生理的拍動で数%〜十数%だが、最大(破断近傍や動脈瘤など病的拡張)では50〜100%程度に達し得る。したがって「最大変形が10%程度」とするのは過小評価で不適切。
解説
正答は3。ずり速度は速度勾配で単位は[s^{-1}]、m/sは速度の単位であるため1は誤り。生体軟組織は高含水でほぼ非圧縮性とみなされ、ポアソン比はおおむね0.5近傍で1.0にはならないため2は誤り。ヤング率Eはフックの法則 $\sigma=E\varepsilon$ より、応力$\sigma$と同じPaが単位で3は正しい。腱は筋より硬く(変形しにくく)、ヤング率は腱の方が大きいので4は誤り。動脈壁は大変形能を持ち、生理的拍動での円周ひずみはおおむね数%〜十数%だが、破断近傍の最大変形はこれを大きく上回る報告が多く、「最大変形が20%程度」と断定するのは不適切で5は誤り。
選択肢別解説
誤り。ずり速度(せん断速度)は速度の空間勾配であり $\dot{\gamma}=\frac{dv}{dy}$ などと表される。無次元量/距離×速度の次元より、SI単位は[$\mathrm{s}^{-1}$]。m/sは速度そのものの単位で、ずり速度の単位ではない。
誤り。等方線形弾性体では安定条件からポアソン比は -1<$\nu$<0.5 で、非圧縮極限で $\nu\approx0.5$。生体軟組織は高含水でほぼ非圧縮性のため0.5近傍の値をとるが、1.0にはならない。
正しい。フックの法則 $\sigma=E\varepsilon$ において、応力 $\sigma$ の単位はPa、ひずみ $\varepsilon$ は無次元である。したがってヤング率 $E$ の単位はPaとなる。
誤り。ヤング率が大きいほど変形しにくい。腱は筋より硬く、一般に腱のヤング率は筋より大きい。したがって「腱より筋のヤング率は大きい」は成り立たない。
誤り。動脈壁は大変形能を持ち、生理的圧変動での円周ひずみは数%〜十数%程度だが、材料としての最大(破断近傍)変形はこれを大きく上回る報告が多い。よって「最大変形が20%程度」とするのは過小評価で一般的に正しくない。
解説
正答は1と5。血液は赤血球などの懸濁粒子を含み、せん断速度が上がると見かけ粘度が低下するせん断薄化(Bingham/Casson型の挙動を含む)を示すため、非ニュートン流体である。毛細血管内の流れはレイノルズ数Reが極めて小さく層流である。脈波伝搬速度PWVは血管壁の弾性が大きい(硬い)ほど速く、血管が軟らかいほど遅い。ポアズイユの式は層流・ニュートン流体・円管の前提で$Q = \frac{\pi r^4}{8\mu L}\,\Delta P$となり、流量は半径の4乗に比例する。細い血管では赤血球が管中心へ移動して壁近傍に血漿層が生じる集軸(シグマ)効果が起こる。
選択肢別解説
正しい。血液は血球成分を含むため、せん断速度により見かけ粘度が変化する非ニュートン流体である(一般にせん断薄化)。
誤り。毛細血管では管径が極めて小さく流速も遅いためレイノルズ数が非常に小さく、流れは層流である。乱流は一般にReが約2000を超える領域で発生する。
誤り。脈波伝搬速度PWVはメーンズ・コルテヴェーグの関係$PWV = \sqrt{\frac{E\,h}{\rho\,D}}$などで表され、血管壁のヤング率E(硬さ)に比例する。したがって血管壁が硬いほど速く、軟らかいほど遅い。
誤り。ポアズイユの式$Q = \frac{\pi r^4}{8\mu L}\,\Delta P$より、流量Qは半径rの4乗に比例する。2乗ではない。
正しい。細い血管で赤血球が管中心に集まって周辺に赤血球の乏しい血漿層が形成される現象をシグマ効果(集軸効果)という。これに伴いファーレウス効果・プラズマスキミングなども観察される。