臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
トランジットタイム(時間差)型超音波血流計は、流れに沿う向きと逆向きの2経路で音波を伝播させ、その到達時間差から平均流速(および流量)を求める方式である。代表的な関係式は、入射角を $\theta$、音速を $c$、経路長を $L$、流速を $v$ とすると、順流方向 $t_{\downarrow}=\dfrac{L}{c+v\cos\theta}$、逆流方向 $t_{\uparrow}=\dfrac{L}{c-v\cos\theta}$、時間差 $\Delta t=t_{\uparrow}-t_{\downarrow}\approx\dfrac{2Lv\cos\theta}{c^2}$ で、流速が大きいほど $\Delta t$ は大きくなる。測定は広いビームで流路断面全体を音場内に含めることで、速度分布の影響を低減し断面平均に近い値を得る。一方、赤血球による散乱波の周波数シフト(ドプラ効果)を測るのはドプラ型血流計の原理であり、本方式とは異なる。体外循環回路(人工心肺、ECMO 等)では非侵襲に装着でき、標準的に用いられている。
選択肢別解説
正しい。時間差法では、流れに沿う向きと逆向きの双方へ超音波を送受し、それぞれの伝播時間を測って差分から流速を求める。
正しい。流路断面全体をカバーする広い音場(ワイドビーム)で計測し、速度分布の影響を受けにくい断面平均に近い値を得るのがトランジットタイム型の特徴である。
誤り。赤血球で散乱された超音波の周波数シフトを測るのはドプラ型の原理であり、トランジットタイム型は伝播時間差を測定する。
正しい。流速が増すと順流方向は到達時間が短く、逆流方向は長くなり、その時間差 $\Delta t\,(\approx 2Lv\cos\theta/c^2)$ は流速に比例して大きくなる。
正しい。体外循環(人工心肺、PCPS/ECMO など)の回路流量計測に広く用いられる実績がある。
解説
トランジットタイム型超音波血流計は、流路の上下流方向に超音波を送受し、流れにより生じる上り・下りの伝搬時間差(Δt)から流速成分を求め、流量に換算する方式である。原理上、流れがゼロのときは時間差もゼロとなるためゼロ点補正を基本的に要しない。超音波を用いるため電磁的なノイズや干渉の影響を受けにくく、電気的に血液回路へ電流を流さない。装置構成上、複数プローブを同時接続して多チャネルで同時計測できる機種が一般的である。一方、体表面から非侵襲で血管内血流を測る用途はドプラ法が適しており、トランジットタイム法は体外循環回路のチューブや術中に血管へクランプ装着する使用形態が主である。
選択肢別解説
誤り。トランジットタイム法は上下流の伝搬時間差を測るため、無流時には時間差がゼロとなり原理的なゼロ点補正は不要である(装置によって微小なオフセットの自動補償があるが、設計上「必須」とはされない)。
誤り。体表面からの非侵襲的な血流測定は一般にドプラ法が用いられる。トランジットタイム法は、体外循環回路のチューブや露出血管にプローブをクランプして用いるのが基本で、体表面経由の測定は想定されない。
$正しい。趣旨としては超音波の伝搬時間差を利用する方式であり、流れに応じて上流 \cdot 下流の伝搬に要する時間が変化し、その差から流速を求める。設問文の「伝搬速度」は厳密には「伝搬時間差」と表現するのが適切である(誤記の可能性はtypo_checkに記載)。$
正しい。超音波を利用するため電磁血流計のような電磁誘導の影響や電極ノイズを受けにくく、電磁干渉(EMI)にも比較的強い。電気的な導通を血液回路へ作らない点でも非干渉性が高い。
正しい。トランジットタイム式のモニタは複数のプローブ入力を備え、複数部位の血流を同時に監視できる機種が広く用意されているため、多チャネル同時計測が可能である。
解説
トランジットタイム型超音波血流計(Transit-time flowmeter, TTFM)は、血流方向に沿った上流→下流(順方向)と下流→上流(逆方向)に伝播する超音波の到達時間差(伝搬時間差)を利用して血流速度や体積流量を求める。ドプラ効果は用いないため、ゼロ点補正(零点合わせ)を前提としないのが一般的な特徴である。測定には血管を挟み込むように配置した対向トランスデューサ(少なくとも2個)が必要で、体表面からの非侵襲的測定ではなく、術中などで血管外表に装着して用いるのが標準的である。また装置構成上、複数プローブを接続して多チャネル同時計測も可能である。代表的な関係は、順逆方向の到達時間差 $\Delta t = t_{up}-t_{down}$ が平均流速に比例し、血管断面積を考慮することで体積流量に換算できる。
選択肢別解説
正しい。TTFM は血流方向と逆方向に送受信した超音波の到達時間差(伝搬時間差)を用いて流速を推定する。ドプラ周波数偏移ではなく伝搬時間の差を情報源とするのが特徴である。
正しい。TTFM 装置は複数のプローブ(チャネル)を接続して同時計測できる機種が一般的で、複数血管・複数部位の同時監視が可能である。
誤り。ドプラ法のような周波数オフセットの影響を前提とせず、基本的に到達時間差を直接測る方式であり、零点合わせ(ゼロ点補正)を必要としないことが特徴である。
誤り。臨床で用いられる TTFM は血管を挟むクランプ型プローブなどを直接血管外表に装着して測定するため、体表面からの非侵襲的測定は行わない。
誤り。順方向と逆方向の伝搬時間を比較するため、通常は対向配置の超音波振動子を少なくとも2個用いる。1個のみでは順逆の時間差を直接得られない。
解説
トランジットタイム型超音波血流計は、流路の2つの振動子間で超音波パルスを上流方向・下流方向に往復させ、その伝搬時間の差(トランジットタイム差)から平均流速を求める方式である。流れに沿う伝搬は速く、逆行は遅くなるため、両方向の到達時間差が生じ、これが流速に比例する。得られた平均流速と管内断面積から流量は $Q= v \times A$ で算出する。ドプラ効果(周波数偏移)や超音波のコヒーレンスは原理として用いない。また、電磁誘導(フレミングの左手の法則)やスワンガンツカテーテルの多チャネル構造とも無関係である。選択肢2のように、上流・下流位置に置いた2振動子で超音波を相互送受信する構成が本方式の本質である(装置によっては同一側配置のV法など反射を用いる実装もあるが、いずれも二方向の伝搬時間差を利用する点は同じ)。
選択肢別解説
誤り。ドプラ効果(周波数偏移)を用いるのはドプラ型超音波流量計であり、トランジットタイム型は周波数ではなく伝搬時間差を用いて流速を算出する。
正しい。上流側・下流側に配置した2つの振動子が互いに超音波パルスを送受信し、流れに沿う場合と逆らう場合の伝搬時間差を測定して流速を求める。実装によっては反射を用いて同一側にプローブを置く場合もあるが、二方向の伝搬時間差を利用する点は同じで本質的に一致する。
誤り。コヒーレンス(波の干渉性・位相相関)を利用する計測ではなく、上流・下流方向の到達時間の差(トランジットタイム差)に基づいて平均流速を算出する。
誤り。フレミングの左手の法則は電磁力(ローレンツ力)に関する法則で、電磁流量計に関係する概念である。超音波式である本方式とは無関係。
誤り。スワンガンツカテーテルは熱希釈法などで心拍出量を測定するが、トランジットタイム型超音波血流計は体外循環回路や血管に装着した超音波プローブで時間差を測る方式であり、カテーテルの多チャネルは用いない。
解説
トランジットタイム(Transit-time)型超音波血流計は、流れに対して順方向・逆方向へ伝搬する超音波の到達時間差(伝搬時間差)から体積流量を求める方式である。超音波を用いるため電磁ノイズの影響を受けにくく、零流時には到達時間差が理論上0となるので原理的にゼロ点補正は不要である(装置の自己診断や基線確認は行うことがある)。クランプオン型プローブにより体外循環回路のチューブ(PVC等)でも非侵襲に使用でき、心臓外科領域では内胸動脈グラフト(ITA)など細径血管の術中評価にも広く用いられる。装置構成上、複数プローブを同時接続して多チャネル同時計測が可能な機種が一般的である。
選択肢別解説
正しい。トランジットタイム型血流計は複数プローブを同時接続できる機種が多く、複数チャネルの同時計測が可能である。手術中に複数グラフトや複数回路ラインの流量を並行監視する用途で用いられる。
誤り。超音波の伝搬時間差を用いるため、電磁界に依存する計測ではなく電気的干渉(電磁ノイズ)の影響を受けにくい。一般的な電磁流量計と異なり、EMIによる指示変動は起こりにくい。
誤り。原理的に無流時の伝搬時間差は0であり、ゼロ点補正は不要である(装置の基線確認やドリフト確認は実施することがあるが、ユーザが都度ゼロ点を合わせる前提ではない)。
正しい。クランプオン型のトランジットタイムプローブは体外循環回路のチューブ(例:PVCチューブ)の外側から装着して非侵襲に流量測定が可能で、体外循環や血液浄化回路の管理に用いられる。
正しい。術中血行再建の評価として内胸動脈グラフト(ITA)をはじめとする冠動脈バイパスグラフトの流量・拍動指数の測定に広く用いられている。細径血管でも計測可能である。
解説
トランジットタイム型超音波血流計(TTFM)は、流れに沿う伝搬と逆らう伝搬の超音波到達時間差(トランジットタイム差)から流速・流量を求める方式で、媒体中の音速や増幅器感度といった共通要因が差分で相殺されるため、原理上はゼロ点補正を必要としない。また計測原理が超音波であるため、電磁誘導を用いる電磁血流計に比べて電磁的干渉の影響を受けにくい。体外循環用のPVCチューブなどにクランプオンして非侵襲に測れるプローブが普及しており、専用プローブを用いれば外径約1 mm程度の小血管でも計測が可能である。したがって「計測前にゼロ点補正が必要」「電磁血液計よりも電磁的干渉を受けやすい」は誤りである。
選択肢別解説
誤り。TTFMは上流・下流方向の伝搬時間差を利用するため、共通オフセットが差分で打ち消され、原理上ゼロ点補正は不要である(機器としてはウォームアップやオフセット確認機能を備えることはあるが、方式の本質として必須ではない)。
正しい。複数のプローブを用意すれば、各プローブからの信号を並列に取得し、複数チャネルを同時に計測できる設計が一般的である。
正しい。TTFMはクランプオン型プローブでPVC(ポリ塩化ビニル)製の体外循環回路チューブ越しに血流量を測定でき、シリコーンやポリウレタン等の一般的な回路材でも運用される。
正しい。微小血管用の周囲装着型(パリバスキュラ)プローブがあり、外径約1 mm程度の小動脈も対象となる。低流量域の感度と取付け精度を確保すれば計測可能である。
誤り。TTFMは超音波の到達時間差を測る方式であり、原理的に電磁的干渉の影響は小さい。一方、電磁血流計は電磁誘導を利用するため環境の電磁ノイズの影響を相対的に受けやすい。
解説
パルスドプラ血流計は送受信を時間分割で行い、エコー到達時間から深さを選択(ゲーティング)できるため距離分解能を有する。血流速度推定はドプラ周波数シフト $f_D=\frac{2 f_0 v \cos\theta}{c}$ を用いる。パルス方式では非エイリアシングで観測できる最大ドプラ周波数がナイキスト限界 $f_N=\frac{PRF}{2}$ に制限されるため、最大計測速度は $v_{\max}=\frac{c\,PRF}{4 f_0 \cos\theta}$ となり PRF に依存する。一方、超音波周波数を高くすると組織内減衰が増え、到達深度(最大計測深度)は浅くなる。通常、送受信は同一振動子で行う(時分割)。
選択肢別解説
誤り。血流方向とビームが同方向($\theta=0^\circ$)では $\cos\theta=1$ となりドプラシフトは最大で、測定は可能である。測定不能となるのは $\theta=90^\circ$($\cos\theta=0$)に近いときである。
正しい。パルス方式ではナイキスト限界 $f_N=PRF/2$ を超えるとエイリアシングが生じるため、最大計測可能速度は $v_{\max}=\frac{c\,PRF}{4 f_0 \cos\theta}$ に従い PRF に依存する。PRFを上げれば $v_{\max}$ も上がる。
誤り。パルスドプラは送受信を時間分割で行い、同一振動子(単一素子)で送受信できる。別素子を必須とするわけではない。
誤り。超音波周波数が高いほど生体内減衰が大きくなるため、最大計測深度は浅くなる(ただし空間分解能は向上)。
誤り。パルスドプラはパルスの往復時間から深さを選択できるため距離分解能を持つ。距離分解能はパルス幅(空間パルス長)が短いほど良くなる。距離分解能を持たないのは連続波ドプラである。
解説
パルスドプラ血流計では、移動体(血球)によるドプラシフト周波数は $\Delta f = \frac{2 f_0 v \cos\theta}{c}$ に従う。したがってビームと血流が垂直($\theta=90^\circ$)のとき $\cos\theta=0$ となりシフトが生じず測定できない。一方、ドプラ信号はパルス繰り返し周波数(PRF)でサンプリングされるため、検出可能なシフトの上限はナイキスト周波数 $f_{\text{PRF}}/2$ であり、これを超えると周波数折り返し(エイリアシング)が発生する。血流速度 $v$ が大きいほど $\Delta f$ が増し、折り返しは起こりやすい。最大計測深度は往復時間がPRFで制限され $D_{\max} \approx \frac{c}{2 f_{\text{PRF}}}$ となるため、PRFを上げるほど浅くなる。PRFは中心周波数(送信の振動周波数)とは独立の設定であり、「振動周波数の2倍以上」とする要件はない。以上より、正しいのは選択肢2と3。
選択肢別解説
誤り。目標(血流)がプローブに近づくときはドプラ効果により受信周波数は送信周波数より高くなる。式 $\Delta f = \frac{2 f_0 v \cos\theta}{c}$ で $v\cos\theta>0$(接近)なら $\Delta f>0$ となり受信周波数は上昇する。遠ざかるときに低下する。
正しい。ドプラシフトは $\Delta f \propto \cos\theta$ に比例し、超音波ビームが血流方向に対して垂直($\theta=90^\circ$)では $\cos\theta=0$ となりシフトが得られず、実質的に測定できない。
正しい。周波数折り返し(エイリアシング)は検出可能な上限(ナイキスト周波数) $f_{\text{PRF}}/2$ を超えるドプラシフトで発生する。血流速度が速いほど $\Delta f$ が大きくなるため、折り返しは起こりやすい。
誤り。PRFは送信超音波の中心周波数(MHz帯)とは別概念で、通常kHz帯に設定される。サンプリング定理が要求するのは $f_{\text{PRF}} > 2\lvert\Delta f\rvert$(ドプラシフトに対して)であり、$f_{\text{PRF}}$ をキャリア周波数 $f_0$ の2倍以上にする要件はない。
誤り。最大計測深度は $D_{\max} \approx \frac{c}{2 f_{\text{PRF}}}$ に反比例し、PRFが高いほど音波往復時間に許される余裕が小さくなるため浅くなる。したがって「高いほど大きい」は誤り。
解説
本問は超音波ドプラ法の基礎。反射体(血球)がプローブに近づくと受信周波数は発信周波数より高くなる(正のドプラシフト)。ドプラ周波数は $f_d = \frac{2 f_0 v \cos\theta}{c}$ で与えられる。連続波(CW)ドプラは送受信を連続で行うため距離分解能がなく、特定深さの血流だけを選んで計測することはできない。一方、パルスドプラは距離分解能を持つが、最大検出可能ドプラ周波数はナイキスト周波数 $PRF/2$ に制限され、これを超えるとエイリアシング(折り返し)が生じる。また、最大計測深度は反射波が次パルス送信までに戻る必要から $PRF \le \frac{c}{2 d_{\max}}$ に制約され、PRFを上げるほど $d_{\max}$ は浅くなる。PRFは通常数kHzオーダであり、MHzは搬送波(送信超音波)の周波数帯である。以上より正しいのは1。
選択肢別解説
正しい。血流がプローブに向かって近づくとドプラシフト $f_d$ は正となり、受信周波数は発信周波数より高くなる。式は $f_d = \frac{2 f_0 v \cos\theta}{c}$。
誤り。連続波ドプラ法(CW)は距離分解能を持たず、ビーム内の全ての散乱体の速度成分を重ね合わせて検出するため、特定深さ(特定部位)の血流速だけを識別できない。
誤り。エイリアシングは高いドプラ周波数(=高い血流速や低い送受角、低いPRF設定など)で生じ、条件は $|f_d| > PRF/2$。血流速が小さいときには起こりにくい。
誤り。反射波が戻るまで次パルスを待つ必要があり、$PRF \le \frac{c}{2 d_{\max}}$。したがってPRFが高いほど許容される最大計測深度 $d_{\max}$ は浅くなる。設問は関係を逆に述べている。
誤り。パルスドプラのパルス繰り返し周波数(PRF)は通常数kHzオーダで、例えば $d_{\max}=15\,\mathrm{cm}$、$c\approx1540\,\mathrm{m/s}$ なら $PRF \lesssim \frac{1540}{2\times0.15} \approx 5.1\,\mathrm{kHz}$。5 MHzは超音波搬送波の周波数帯であり、PRFではない。
解説
超音波ドプラ血流計のドプラシフトは、反射体(赤血球)が動く速度と超音波ビーム方向の成分に比例し、$f_d = \frac{2 f_0 v \cos \theta}{c}$ で与えられる。したがって、血流がプローブへ近づくと $\cos \theta > 0$ かつ $v>0$ より $f_d>0$ となり受信周波数は送信周波数より高くなる。ビームと血流が直交($\theta=90^\circ$)では $\cos 90^\circ=0$ のためシフトは生じない。パルスドプラ法では観測できる最大ドプラ周波数はナイキスト周波数 $f_{\text{Nyq}}=f_{PRF}/2$ に制限され、$|f_d|>f_{PRF}/2$ でエイリアシング(周波数折り返し)が起こるため、流速が速いほど発生しやすい。パルス繰り返し周波数 $f_{PRF}$ は搬送波(送信周波数 $f_0$)とは独立のパラメータで、深さ分解能や最大計測深度とトレードオフ関係にある。最大計測深度は $D_{\max}=\frac{c}{2 f_{PRF}}$ で、$f_{PRF}$ を高くすると浅くなる。以上より、正しい肢は2と3である。
選択肢別解説
誤り。血流がプローブに向かって近づくとドプラシフトは正($f_d>0$)となり、受信周波数は送信周波数より高くなる($f_{rec}=f_0+f_d$)。式 $f_d=\frac{2 f_0 v \cos \theta}{c}$ からも、$v>0$ かつ $\cos \theta>0$ のとき $f_d$ は増加する。
正しい。ドプラシフトは角度の余弦に比例し、$\theta=90^\circ$ では $\cos 90^\circ=0$ のためドプラシフトはゼロとなり観測されない。
正しい。血流速度が速くなると $|f_d|$ が増大し、ナイキスト周波数 $f_{PRF}/2$ を超えるとエイリアシング(周波数折り返し)が発生するため、速い流れほど起こりやすい。
誤り。パルス繰り返し周波数 $f_{PRF}$ はドプラ信号($f_d$)の標本化に関係し、$f_{PRF}\ge 2 f_{d,\max}$ が目安である。搬送波である超音波の振動周波数 $f_0$(通常 MHz 帯)とは別の量で、$f_{PRF}$ を $2 f_0$ 以上にする必要はない。
誤り。最大計測深度は $D_{\max}=\frac{c}{2 f_{PRF}}$ で表され、$f_{PRF}$ を高くすると $D_{\max}$ は小さくなる(浅くなる)。深部を測るには $f_{PRF}$ を下げる必要がある。
解説
超音波ドプラ血流計では、送受した超音波のドプラ周波数偏移から血流の線速度(ビーム方向成分)を推定する。パルスドプラ法は時間ゲーティングにより深さ(サンプルボリューム)を選択でき、特定部位の速度成分を測定できる。一方でパルス法はサンプリング理論の制約(ナイキスト限界)を受け、最大測定可能ドプラ周波数は $\pm \tfrac{\mathrm{PRF}}{2}$ に制限され、対応する最大速度も上限が生じる。連続波ドプラ法は高い流速でもエイリアシングを起こさないが、時間情報から距離を特定できないため距離分解能を持たない。カラードプラ法はパルスドプラを画素ごとに走査して平均速度や方向を色で表し、2次元の速度分布として表示するため、パルス法由来のエイリアシングも起こりうる。代表式はドプラ式 $f_d = \dfrac{2 f_0 v \cos\theta}{c}$、パルス法の速度上限はおおよそ $v_{\max} \approx \dfrac{c\,\mathrm{PRF}}{4 f_0 \cos\theta}$。
選択肢別解説
正しい。パルスドプラ法は送受信の時間差(飛行時間)から深さを選びサンプルボリュームを設定し、その部位のビーム方向速度成分を測定できる(レンジゲーティング)。
正しい。パルスドプラ法はサンプリング周波数であるPRFによりナイキスト限界 $\pm \mathrm{PRF}/2$ が生じ、これを超えるドプラ周波数はエイリアシングを起こす。対応する最大速度は $v_{\max} \approx \dfrac{c\,\mathrm{PRF}}{4 f_0 \cos\theta}$ で与えられ、上限が存在する。
誤り。連続波ドプラ法は連続送受信のためエコーの往復時間から反射体の距離を弁別できず、距離分解能を有しない。ビーム上の全反射体の速度成分が重畳して検出される。
誤り。カラードプラ法はパルスドプラ法を用いるため、ナイキスト限界を超える速度ではエイリアシング(折り返し)が発生し、色相の反転などとして現れる。
正しい。カラードプラ法は走査線・画素ごとにドプラ情報(平均速度や方向、分散)を推定し、色で表示するため、血流速度の2次元分布として観察できる。