臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
本問は電磁環境と医用機器の基礎。2.4 GHz帯の電磁波はフォトンエネルギーが低く物質を電離させないため非電離放射線である。携帯電話は数百MHz〜数GHzの帯域を用い、500 kHzは携帯電話の帯域ではない。医用テレメータ(特定小電力無線局)は電波法で使用周波数帯が割り当てられており、出力が小さければ任意周波数でよい訳ではない。心電計の電磁障害は主に交流雑音やベースラインの乱れとして現れ、患者測定電流(患者漏れ電流)を増加させる機序ではない。電気メス使用時にはペースメーカのデマンド機能がノイズを自己脈と誤認して抑制される危険があるため、一般に一時的に固定レート(非同期)に設定して安全側に管理する。
選択肢別解説
$正しい。2.4 GHz帯はマイクロ波領域であり、フォトンエネルギーは E=h\nu より極めて小さく(2.4 GHzで約10^{-5} eV程度)、原子 \cdot 分子を電離させない。したがって非電離放射線に分類され、無線LANやBluetooth等に用いられる。$
誤り。携帯電話(LTE/5Gを含む)は主に700 MHz帯、800/900 MHz帯、1.5〜2.1 GHz帯、3.4〜3.7 GHz帯などを使用する。500 kHzは中波(AM)放送帯域に相当し、携帯電話の周波数ではない。
誤り。小電力の医用テレメータは電波法に基づき使用できる周波数帯が指定されており(日本では400 MHz帯の割当てがある)、出力が規定内でも任意の周波数の使用は認められない。混信防止と医療安全の観点から周波数管理が義務付けられている。
誤り。心電計の電磁障害は50/60 Hzの交流雑音や高周波干渉として波形乱れ・飽和・ベースライン動揺などで現れるのが典型で、患者測定電流(患者漏れ電流)を増加させるものではない。漏れ電流は機器設計・規格で制限され、外来電磁波の印加で増やす前提にはない。
正しい。電気メスの高周波ノイズをデマンド型ペースメーカが自己脈として過大にセンシングするとペーシング抑制による徐脈・無脈の危険がある。手術時は一時的に固定レート(VOO/DOO等の非同期)に設定する、あるいは磁石応答で非同期化するなどの対応が推奨される。併せて対極板配置や通電時間短縮等で干渉低減を図る。
解説
電気メスは神経・筋の興奮を避けつつ熱作用を得るために高周波(概ね $300\ \text{kHz}\sim\text{数}\ \text{MHz}$)を用いる。臨床で広く用いられる装置は約 $300\sim500\ \text{kHz}$ 帯を中心とするため、選択肢1は妥当である。切開は連続波(高デューティ比)で細胞を急速加熱・蒸散して切るのに対し、凝固は断続(パルス)出力で乾燥・止血を図る。対極板は導電接触型の方が皮膚との接触インピーダンスが小さく、静電接触型は容量結合ゆえにインピーダンスが大きい。高周波漏れ電流(接地へ流れる電流)の許容値は規格上 $150\ \text{mA}$ RMS 程度であり、$500\ \text{mA}$ は過大。出力点検・校正にはメーカ指定の無誘導負荷(おおむね $100\sim2000\ \Omega$)を用い、$10\ \Omega$ は不適切である。
選択肢別解説
正しい。電気メスはおおむね $300\ \text{kHz}\sim5\ \text{MHz}$ の高周波を用いるが、臨床で一般的な装置は約 $300\sim500\ \text{kHz}$ 帯(特に $500\ \text{kHz}$ 前後)が多い。これにより神経・筋刺激を抑えつつジュール熱で切開・凝固が可能になる。
誤り。切開モードは連続波(高デューティ比の連続出力)を用い、組織を急速に加熱・蒸散させて滑らかに切開する。断続(パルス)出力を用いるのは主に凝固モードで、乾燥・止血を目的とする。
誤り。導電接触形対極板は皮膚と導電的に接触するため接触インピーダンスが小さい。一方、静電接触形は容量結合(コンデンサ)で電流を流すため、同条件では接触インピーダンスが大きくなる。
誤り。高周波漏れ電流(接地に流れる高周波電流)の許容値は規格(例:JIS T 0601-2-2)でおよそ $150\ \text{mA}$ RMS 以内とされる。$500\ \text{mA}$ は許容値を大きく超える。
誤り。電気メスの出力点検・校正はメーカ指定の無誘導抵抗負荷で行い、典型的に $100\sim2000\ \Omega$ の範囲が用いられる。$10\ \Omega$ は過小で機器仕様に適合しない。
解説
超音波吸引手術装置(CUSA等)は20\sim35 kHz程度の超音波振動を先端ホーンに与え、脆弱な実質臓器などを選択的に破砕・乳化し、同時に吸引して除去する装置である。先端の実効振幅はおおむね $100\sim 300\,\mu\text{m}$(0.1\sim0.3 mm)程度と小さく、電気手術のような電流通電は行わないため対極板は不要である。使用時は滅菌生理食塩液を先端から灌流し、冷却やキャビテーション補助、吸引搬送を行う。凝固能力は電気メスほど強力ではなく、止血は主に低流量の出血の制御や併用機器で補う。したがって「生理食塩液で洗浄しながら使用する」が正しい。
選択肢別解説
誤り。先端の振幅は一般に $100\sim 300\,\mu\text{m}$(0.1\sim0.3 mm)程度であり、1\sim3 mmのような大振幅ではない。大きすぎる振幅は組織損傷が過大となり本装置の選択的破砕の特性とも合致しない。
誤り。超音波の機械的振動で組織を破砕・乳化するため電流を患者に流す必要がなく、電気メスのような対極板は不要である。
正しい。使用時は滅菌生理食塩液を先端から灌流して冷却・洗浄し、破砕組織を吸引しやすくする。灌流はキャビテーションの発生と除去の効率化にも寄与する。
誤り。超音波吸引手術装置の凝固能力は電気メスに比べて弱い。小出血の抑制は可能だが、強い凝固・止血は電気メスや他の止血法を併用するのが一般的である。
誤り。主用途は肝・膵・脳などの脆弱組織の選択的破砕・吸引であり、骨切開は本装置の主目的ではない。骨切開には専用の超音波骨手術装置(超音波骨メス)など別機器が用いられる。
解説
超音波吸引手術装置(CUSAなど)は、圧電素子で電気エネルギーを超音波の機械的縦振動(一般に約23〜38 kHzの帯域)に変換し、ホーン先端でおよそ100〜300 μmの振幅に増幅して組織に接触させることで、脆い実質臓器組織をキャビテーションやせん断作用で破砕・乳化し、同時に吸引除去する装置である。術野の冷却・洗浄と視野確保のために滅菌生理食塩液を灌流して用いる。弾性に富む皮膚・血管・神経は破砕されにくく、皮膚切開用途ではなく、肝・脳などの実質臓器の腫瘍摘出に適する。以上より、正しいのは3と4である。
選択肢別解説
誤り。超音波吸引手術装置が用いる機械振動の周波数は一般に数十kHz(例:23〜38 kHz)であり、50 MHzのような高周波は超音波診断や集束超音波など別用途の領域である。
誤り。超音波吸引手術装置は先端を組織に接触させ、振動による破砕・乳化と吸引で除去する。超音波エネルギーを遠方に集束して切開する装置(HIFUなど)や、超音波凝固切開装置とは目的と機構が異なる。
正しい。ホーン先端は縦方向におよそ100〜300 μmの振幅で振動し、この微小振幅の高速振動により実質組織を選択的に破砕・乳化する。
正しい。術野の冷却・洗浄と破砕片の排除のため、滅菌した生理食塩液を灌流しながら使用し、吸引系で同時に除去する。
誤り。皮膚や血管・神経など弾性に富む組織は破砕されにくいため皮膚切開には適さない。主な適応は肝・脳などの実質臓器の腫瘍摘出である。
解説
超音波吸引手術装置(CUSA など)は、約20〜35kHzの超音波振動で先端チップを微小振幅(サブミリ:数百µm)で振動させ、キャビテーションやせん断により脆弱な実質性組織(肝・腫瘍など)を選択的に破砕しつつ吸引・洗浄する装置である。高周波メスのような電流回路は用いないため対極板は不要で、冷却・洗浄・組織片の乳化のために生理食塩液による持続灌流が必須である。先端振幅はサブミリであり「5〜10mm」のような大振幅は現実的でなく、また骨の鋭的切開には不向きである。以上より、正しいのは周波数に関する記述(25kHz前後)である。
選択肢別解説
不正解。超音波吸引の先端振幅はサブミリ(おおよそ0.1〜0.3mm程度)で運用される。5〜10mmは桁違いに大きく、組織損傷や操作不能レベルで現実的ではない。
正解。超音波吸引手術装置の駆動周波数は概ね20〜35kHz帯であり、25kHz前後という表現は妥当である。
不正解。機械的な超音波振動で組織を破砕する装置であり、電気メスのように患者体内へ高周波電流を流さないため対極板は不要である。
不正解。生理食塩液による灌流は必須で、先端の冷却、術野の洗浄、破砕組織の乳化・吸引補助に用いられる。
不正解。超音波吸引は脆弱な実質性組織の選択的破砕・吸引に有用だが、骨の鋭的切開には適さない。骨切開には専用の器具(鋸、ドリル、超音波骨手術装置など)を用いるのが一般的である。
解説
電気メスでは、切開は連続波(連続的に出力)で組織を素早く蒸散させ、凝固は断続波(デューティ比を下げた変調波)で組織を乾燥・止血させる。点検で用いるダミー負荷は高周波でのインダクタンス影響を避けるため無誘導抵抗器を用いる。対極板の安全は電流密度(単位面積あたりの電流)で決まり、出力電流が大きいほど必要面積も大きくなる($J=I/A$)。静電結合型対極板は表面が絶縁されており、体表と電極の間に容量を形成して電流を回収する設計で、接触不良や局所高密度電流を抑える意図がある。スプレー凝固は高電圧・火花放電を伴うため高周波ノイズが発生しやすく、モニタ等に雑音障害を起こしうる。
選択肢別解説
誤り。切開出力が連続波で、凝固出力は断続波(低デューティ比の変調波)である。凝固は加熱時間を間欠的にして炭化・止血を得る方式であり、連続波ではない。
正しい。電気メスの点検では高周波電流を負荷に流すため、インダクタンスを持つ巻線抵抗は誤差や発振の原因となる。したがってコイル成分を極小化した無誘導抵抗器を負荷抵抗として用いる。
正しい。対極板での熱傷は高い電流密度が原因となるため、出力電流が増えるほど対極板面積を広くして$J=I/A$を安全域に保つ必要がある。一般に安全電流密度は概ね数十 mA/cm^2 以下が目安とされ、出力に依存して必要面積が変わる。
正しい。静電結合型対極板は表面が絶縁され、患者皮膚との間にコンデンサを形成して容量結合で電流を回収する。これにより直流や低周波成分の直接流入を避け、局所的な高電流密度の発生を抑える設計である。
誤り。スプレー凝固は高電圧で非接触の火花放電を用いるため、高周波ノイズ(EMI)が発生しやすく、ECGなどのモニタに雑音障害を生じやすい。
解説
RFカテーテルアブレーションは、心筋内の異常な電気伝導路・焦点を、カテーテル先端から流す高周波(おおむね数百kHz)電流によるジュール加熱で焼灼し、頻脈性不整脈を根治的に治療する方法である。病変部組織の温度は細胞が不可逆変性を起こすおよそ50〜60℃を目安に制御され、カテーテル先端が300℃以上になることはない。手技では一般にX線透視装置でカテーテル位置を確認する。また高周波通電に伴う電磁干渉は、体内植込み機器(ペースメーカなど)に影響し誤作動を起こし得るため、適切な周術期対応(感度設定変更、磁石使用、監視体制)が必要となる。したがって正しい記述は4と5である。
選択肢別解説
誤り。RFカテーテルアブレーションは主に頻脈性不整脈(例:房室結節リエントリー性頻拍、WPW症候群、心房粗動・心房細動の特定部位など)に対する根治的治療である。徐脈性不整脈の基本治療はペースメーカ植込みであり、RFアブレーションは適応ではない。
誤り。カテーテル位置・治療部位の同定にX線透視装置は一般に用いられる。近年は三次元マッピングやICEで被ばく低減・ゼロ透視が図られることはあるが、設問の「不要である」という断定は不適切。
誤り。治療効果は組織温がおよそ50〜60℃で得られるよう制御される。300℃以上は電気メスの切開モードに近い温度域であり、RFアブレーションのカテーテル先端温度としては不適切。
正しい。RF(高周波)カテーテルアブレーションは、カテーテル先端電極から体内へ高周波電流(一般に数百kHz)を流し、局所を加熱・焼灼して異常伝導路や不整脈起源を遮断する。
正しい。高周波通電に伴う電磁干渉により、ペースメーカが過感知・不適切抑制等の誤作動を起こす可能性がある。周術期にはモード変更や磁石使用、監視強化などの対策が必要。