臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
人工心肺中の脱血回路に流れる血液は患者から戻る混合静脈血であり,その酸素飽和度(SvO2)は全身の酸素供給(DO2)と酸素消費(VO2)のバランスで決まる。$\text{DO2}=\text{CO}\times C_{a\mathrm{O}_2}$,$\text{VO2}=\text{CO}\times\bigl(C_{a\mathrm{O}_2}-C_{v\mathrm{O}_2}\bigr)$ で表され,送血流量(CO相当),ヘモグロビン濃度,動脈酸素化(生体肺または人工肺の機能),および組織酸素消費が主要因である。送血流量不足,過度の希釈(低Hb),酸素化能低下(生体肺あるいは人工肺での酸素化低下)はいずれもDO2を低下させ,組織での酸素抽出が増えてSvO2は低下する。一方,体温低下は代謝を抑制しVO2を減少させるため,SvO2は低下せずむしろ上昇方向に働く。したがって「原因として考えられない」のは体温の低下である。
選択肢別解説
送血流量(CO相当)の不足はDO2を低下させ,組織での酸素抽出が増えるため混合静脈血酸素飽和度(SvO2)は低下する。よって脱血回路の酸素飽和度低下の原因として考えられる。
過度の血液希釈はヘモグロビン濃度を低下させ動脈酸素含有量(CaO2)を下げるためDO2が低下し,結果としてSvO2は低下する。原因として考えられる。
体温の低下は代謝抑制によりVO2を減少させ,DO2/VO2のバランスは改善方向に働くためSvO2は低下しない(むしろ上昇傾向)。したがって原因として考えられない。
生体肺の機能不全は動脈酸素化を障害しCaO2を低下させるためDO2が不足し,SvO2は低下する。よって原因として考えられる。
吹送ガス酸素濃度の低下は人工肺での酸素化能を低下させ動脈酸素化が不十分となるためDO2が低下し,SvO2は低下する。原因として考えられる。
解説
透析装置(コンソール)が標準でリアルタイム監視・アラーム管理する代表項目には、血液回路の気泡(空気塞栓防止のための気泡検出器)、動脈圧・静脈圧などの回路内圧、治療計画通りに体液量を調整する除水量(UF量)、そして患者安全のための透析液温度などがある。これらは直接的に重篤な事故(空気塞栓、溶血、回路閉塞等)や治療逸脱を防止する目的で搭載される。一方、透析液や血液中の溶存酸素(設問表記:溶解酸素)をコンソールが常時測定・監視する機構は標準装備ではなく、監視項目には含まれない。したがって『溶解(溶存)酸素量』が不適切(監視項目に含まれない)。
選択肢別解説
気泡は透析装置の必須監視項目。静脈側に超音波式の気泡検出器を配置し、空気塞栓を未然に防止するために検出・遮断・アラームを行う。よって監視項目に含まれる。
除水量(UF量)は治療計画の達成と循環動態の安全確保に直結し、設定値と実測値を装置が監視・制御する。過大・過小除水を避けるための基本監視項目である。
回路内圧(動脈圧・静脈圧、必要に応じてTMPなど)は回路閉塞、穿刺不良、血液凝固、漏血などの異常検知に不可欠で、透析装置の主要監視項目に含まれる。
溶解(溶存)酸素量は透析装置の標準的なリアルタイム監視項目ではない。透析液水質管理では電気伝導率、温度、エンドトキシン・細菌管理などが重視されるが、コンソールにDOセンサを常設して監視するのが一般的というわけではない。よって『監視項目に含まれない』に該当する。
透析液温度は通常約35~38℃に制御され、過加熱は溶血や体温上昇のリスクとなるため、温度センサとアラーム・安全遮断機構により監視される。したがって監視項目に含まれる。
解説
誤っている組合せは「濃度計―浸透圧」。透析液の濃度監視は、電解質濃度に比例して変化する電気伝導度を電極で測定するのが一般的で、浸透圧を直接モニタする方式ではない。その他の組合せは、いずれも血液浄化装置で広く用いられる原理に合致する。漏血検出は透析液排液側の光透過測定で赤血球混濁に伴う透過率低下を検出、気泡検出は超音波の減衰・反射を利用、温度計はサーミスタ(NTCが一般的)で透析液温度の制御、圧力計はストレインゲージ式圧力変換器で動脈圧・静脈圧・TMPなどを監視する。
選択肢別解説
正しい組合せ。漏血検出器は透析液排液ラインに設置され、LEDとフォトセンサで光の透過量を測定する。透析膜破損などで血液が混入すると赤血球により混濁して透過率が低下し、しきい値超過でアラームを発する。
正しい組合せ。気泡検出器は超音波方式が一般的で、液体と気泡の音響インピーダンス差により伝搬の減衰・反射が生じることを用いて検出する。光学式もあるが、臨床機では非接触で配管外装着できる超音波式が広く使われる。
誤りの組合せ。透析液の濃度計は電極で交流を印加し電気伝導度を測定して電解質濃度を推定する。浸透圧は体液指標として用いられるが、透析装置の濃度監視の検出原理としては通常採用されない。
表記に誤りがあるが、原理としてはサーミスタが正しい組合せ。サーミスタ(thermistor)は温度によって抵抗値が変化する素子で、透析液温度(概ね35〜40℃)の測定・制御に用いられる。原文の「サーミスク」は誤記と考えられる。
正しい組合せ。圧力計にはストレインゲージ式圧力センサ(ひずみゲージ)が用いられ、動脈圧・静脈圧・透析膜間圧差(TMP)などを連続監視する。半導体ピエゾ抵抗式も使用されるが、ストレインゲージ式は一般的である。
解説
人工心肺(CPB)後の復温時間は、熱交換器による熱伝達量と患者側の熱容量のバランスで決まる。熱交換側はおおむね $Q=U A \\Delta T$(装置の総合伝熱係数U・伝熱面積A・温度差)の枠組み、循環側は $Q=\\dot{m} c_p \\Delta T$(流量・比熱・温度差)で評価できる。したがって、熱交換器の性能(UやA)、血液側の送血流量(\\dot{m})、水側の送水流量と温度設定、そして患者体重に代表される体全体の熱容量は復温速度・所要時間に直接影響する。一方で、血液ガス分圧(PaO2・PaCO2など)は酸素化や酸塩基平衡の指標であり、熱伝達そのものの物理量には含まれないため、復温時間には直接影響しない。よって「影響しない」は血液ガス分圧である。
選択肢別解説
熱交換器の性能は総合伝熱係数Uや有効伝熱面積A、内部構造により熱交換効率を規定し、単位時間あたりの熱移動量 $Q$ を左右するため、復温時間に影響する。
$送血流量は血液側の質量流量 \\dot{m} を増減させ、同じ温度勾配でも単位時間あたりに運べる熱量を変える。流量が大きいほど復温が速くなり得るため、復温時間に影響する。$
血液ガス分圧(PaO2・PaCO2)は酸素化・換気や酸塩基平衡の指標であり、熱交換器での伝熱や患者の熱容量といった熱移動の主要因には直接関与しない。従って復温時間に直接の影響はない(本問の該当肢)。
患者体重は体内総熱容量(おおむね体重と比熱の積)に関係し、同じ熱供給量でも体重が大きいほど目標温までの温度上昇に時間を要する。よって復温時間に影響する。
送水ポンプ流量は水側の熱搬送能力を規定し、熱交換器で達成できる温度差やUの実効値に影響する。水流量が不足すれば熱交換能が低下するため、復温時間に影響する。