臨床工学技士問題表示
臨床工学技士国家試験
解説
植込み型心臓ペースメーカは外部電磁環境の影響(EMI)を受けると、自己心電位と誤検出して抑制される(オーバーセンシングによる一時的な非ペーシング)・不適切なモード遷移・リセットなどの不具合が起こり得る。医療機器の中では高周波電流を用いる電気メス、強力な静磁場・時間変化磁場・RFを用いるMRI、X線CT装置の高電圧スイッチングや散乱電磁ノイズ・高線量照射などが影響源となり得るため注意が必要である。一方、一般的な出力・距離条件で用いられる無線LANや医用テレメータは、機器側のEMC対策や低出力運用により影響は通常軽微で、適切な距離・運用を守れば臨床的影響はほぼ生じないと考えられる。
選択肢別解説
無線LANは低出力で運用され、機器・インプラント双方にEMC対策が施されている。適切な距離を保つ一般環境では、ペースメーカの動作に臨床的な影響を与える可能性は極めて低い。したがって本設問の趣旨(影響する可能性があるもの)には該当しない。
医用テレメータは医療施設内での使用を前提に設計され、周波数・出力管理や機器側のEMC対策が講じられている。患者近傍で使用されるが、通常の運用ではペースメーカへの影響は小さいため、影響する可能性が高い機器とはいえない。
電気メスは数百kHz〜数MHzの高周波電流を用い、大電流が流れるため強い電磁ノイズや漏れ電流が発生する。これをペースメーカが心電信号と誤認してオーバーセンシング・抑制やノイズ抑制モード移行を起こすことがある。電気メスは影響する可能性があるため該当する。
X線CTは回転ガントリ内のX線管高電圧スイッチングやモータ駆動に伴う電磁ノイズ、さらには高線量照射による一過性のデバイス反応などにより、稀にオーバーセンシングや動作不整を来すことが報告されている。よって影響する可能性がある。
MRIは強力な静磁場、時間変化磁場(傾斜磁場)、RFパルスによる電磁環境を伴い、リードへの誘導加熱、オーバー/アンダーセンシング、リセット・モード変更等の重大な影響を及ぼし得る。MR対応機種で適切に条件管理しない限り、影響する可能性が高い。
解説
植込み型心臓ペースメーカは外部電磁界により過感知(オーバーセンシング)や出力抑制、モード切替などの誤作動を生じ得る。特にゲート型の電子商品監視装置(EAS)やRFID読取り機器は比較的強い電磁界を放射・漏洩する場合があり、近接・接触・長時間の滞在でリスクが高まる。また電磁調理器(IH)は誘導加熱に伴う強い低周波磁界が発生し、胸部が近づく姿勢では干渉の恐れがある。これらは影響を及ぼし得るため注意が必要である。一方、PHS端末や無線LAN機器は低出力で通常使用距離において影響は生じにくいとされ、一般的には特段の制限を要しない。従って、影響を及ぼすのはEAS機器、RFID読取り機器、電磁調理器である。
選択肢別解説
正しい(影響を及ぼし得る)。EAS(Electronic Article Surveillance)ゲートは低周波磁界やRFを用いる方式があり、強い電磁界がゲート付近で形成される。ペースメーカの誤感知や一過性抑制が報告されており、ゲートに寄りかからない・立ち止まらない・通路中央を速やかに通過するなどの回避策が推奨される。
正しい(影響を及ぼし得る)。RFID読取り機器はタグ通信のために電波を放射する。特にゲート型・据置型・高出力読取器の近傍では電界・磁界強度が高く、植込み部への近接で過感知等のリスクがある。設置環境では機器に近づき過ぎない、身体(植込み部)を直接かざさない等の配慮が必要である。
誤り(影響を及ぼさないと判断)。PHS端末は低出力(1.9GHz帯)で、通常の使用距離では植込み型心臓ペースメーカへの影響は生じにくいと評価されている。一般的な注意として植込み部位に密着させない等に留意すれば、特段の制限は不要とされる。
誤り(影響を及ぼさないと判断)。無線LAN機器(2.4/5GHz帯)は低出力であり、日常環境での通常使用距離ではペースメーカへの有意な干渉は報告されにくい。植込み部への密着など不自然な近接を避ければ、特別な制限は通常不要とされる。
正しい(影響を及ぼし得る)。電磁調理器(IH)はコイルに大電流を流して誘導加熱を行うため、調理面近傍に強い低周波磁界が発生する。胸部がコンロに近づく姿勢をとると過感知や出力抑制の恐れがあるため、植込み部を近づけない・無理な前屈や接触を避ける等の注意が必要である。
解説
植込み型心臓ペースメーカの基本知識を問う問題。電源は長寿命・自己放電が少ないリチウム・ヨウ素電池が標準的に用いられる。ペースメーカは微小電位を感知するため、電気メスなどの高周波機器による電磁干渉で過感知・抑制などの雑音障害を受け得る。モードはNBGコードで表し、DDDは心房・心室の双方でセンシングとペーシングを行うデュアルチャンバで、通常は心房用と心室用の2本のリードを要するため、「刺激電極は1つ」は誤りである。VVIは心室でセンシング(V)し、抑制応答(I)で心室ペーシング(V)を行うシングルチャンバ。植込み後の設定確認や変更は体外のプログラマと本体間のテレメトリー(誘導・RF)で非侵襲的に行う。
選択肢別解説
正しい。植込み型ペースメーカの主電源にはリチウム・ヨウ素電池が広く用いられ、低自己放電・高信頼性により長期の作動が可能である。実使用寿命は設定や負荷に依存するが、長期運用を前提としている。
正しい。電気メスは高周波電流を用いるため、ペースメーカのリードに誘導されると過感知や抑制などの雑音障害を生じ得る。周術期はバイポーラ電気メスの使用、ディスパッド配置の工夫、必要時の非同期設定などで対策する。
誤り。DDDモードは心房・心室の双方でセンシング/ペーシングを行うため、通常は心房用と心室用の2本のリード(各リードは多くが双極電極)を用いる。単一本リードで心房を感知し心室をペーシングするVDDという方式はあるが、これは心房ペーシングができずDDDではない。
正しい。VVIモードは心室でセンシング(2文字目V)し、自己心拍を感知した場合は抑制(3文字目I)し、必要時に心室へペーシング(1文字目V)を行うモードである。通常1本の心室リードで実現する。
正しい。植込み後の設定確認・プログラム変更・心内心電図の取得などは、体外プログラマと本体間のテレメトリー(誘導結合やRF通信)で非侵襲的に行う。
解説
誤りの組合せは「心臓ペースメーカ — 熱傷」。ペースメーカの出力はパルス電圧が数V、電流が数mA、パルス幅が数百µs〜1ms程度で、1拍あたりのエネルギーは極めて小さく、組織に臨床的な熱傷を生じさせる水準ではない。これに対し、超音波凝固切開装置では先端周囲でキャビテーションが生じ得る、電気メスは高周波電流による電磁障害を引き起こし得る、人工呼吸器は過大な圧や容量により圧損傷(気胸など)を来し得る、高気圧治療装置は減圧を急ぐと減圧症を誘発し得る、いずれも妥当なリスクである。
選択肢別解説
超音波凝固切開装置は数十kHzの機械振動で組織を凝固・切開する。高い音響エネルギーが液体中で作用すると先端周囲でキャビテーション(気泡の生成・崩壊)が生じ、組織損傷や微小出血の一因となり得るため、組合せは適切。
電気メスは数百kHz〜数MHzの高周波電流を用い、機器・配線・空間結合を通じて電磁ノイズを発生させる。心電図モニタの飽和やアラーム誤作動、植込み機器の誤作動など電磁障害の原因となるため、組合せは適切。
人工呼吸器で過大な一回換気量や高い気道内圧、低い呼気終末陽圧管理不良などは肺胞の過伸展を招き、気胸や縦隔気腫などの圧損傷(バロトラウマ)を起こし得る。したがって組合せは適切。
心臓ペースメーカの刺激出力はパルス電圧がおおむね1〜10V、電流が数mA、パルス幅が約0.2〜1ms程度で、1拍あたりのエネルギーはごく小さい。通常の作動で組織の熱傷を生じることは想定されないため、「熱傷」との組合せは不適切(本問の誤り)。なお電気メスやMRIなど外部エネルギー併用時にリード先端の加熱が問題となるのは別の事象である。
高気圧治療装置は加圧・減圧を管理するが、減圧を急ぐと体内で気泡が発生し減圧症を誘発し得る。適切なプロトコルでは緩徐な減圧を行う必要があり、減圧症は管理不良時の代表的リスクである。組合せは適切。